夏休みのオススメはまずこの2作!~POP王がふりかえる2023年本屋大賞受賞作
今年で20回の節目を迎えた本屋大賞。発表会の会場も3年ぶりのリアル開催ということで大いに盛り上がりました。
書店店頭を活性化させるために始まったこの賞ですが、もちろん本屋だけのものではありません。本屋大賞は、本を探せなくなった時代のPOPのような存在。読者からの信頼が積み重なったからこそ、長く続けられているのです。よき読書のきっかけとしての本屋大賞をぜひ皆さんも存分に楽しんでください。
■大賞 凪良ゆう『汝、星のごとく』講談社
栄えある2023年の大賞本は『汝、星のごとく』。記念すべき会の受賞作品に相応しく、まさに感情のすべてを持っていかれるような圧倒的な感動作。
恩田陸に続き、本屋大賞史上2人目の「2度目の大賞受賞」作家となったのです。当日に披露された受賞コメントも涙にあふれており、会場内を感動の渦に巻き込みましたが、この2回目には語り継ぐべきドラマがありました。
『流浪の月』で初めて大賞を獲得した2020年の発表会の当日に緊急事態宣言の発令。その瞬間から書店も休業や時間短縮が相次ぎました。
1年でいちばん店頭が盛り上がるときに何もできない歯がゆさは当事者にしかわからないでしょう。しかしそんな苦難があったから、今回の受賞につながったことは間違いありません。『汝、星のごとく』の発売は2022年8月でしたが、著者は空白の時間を埋めるように全国の書店を巡り歩き、3年分の感謝の想いを伝えてまわったのです。
物語が本になるまでにドラマがあり、作品にももちろん物語があり、そして書店員を通じて読者の手に届くまでにもストーリーがあります。物語を伝え繋げる尊いバトンリレー、その理想形を目の当たりにして思わず鳥肌がたちました。
■第2位 安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』集英社
『ラブカは静かに弓を持つ』は打ち震えるほど魅力的な「音楽×スパイ小説」。冒頭からラストまで読みどころしか見当たりません。刊行直後に現実世界でもこの事件のニュースが話題となり社会派の側面も持ちます。
今夏の高校生向けの課題図書にもセレクトされた本書が、個人的には今年の最大の収穫。一次投票の5位から二次投票2位へと大きくジャンプアップしたことも頷けます。センスと才能にあふれた著者・安壇美緒の今後の作品も楽しみです。
■ノミネート10作品で「いま」を読み解く!
ノミネート10作品を眺めれば、やはりその年ならではの傾向が見えてきます。
今年の例でいえば真っ先に気づくのは、上下にまたがる巻数ものや二段組のようないわゆる長編大作がないこと。そして歴史・時代小説やファンタジーがないのもまた気になる点でした。
小川哲『地図と拳』、奥田英朗『リバー』、砂原浩太郎『高瀬庄左エ門御留書』、上橋菜穂子『香君』などは刊行直後から、書店員ばかりでなく読書家たちからも高く評価されており、当然ノミネートとなるかと思いきや選外でした。
理由はさまざまあるでしょうが、一次投票の場合では、票の読みあいも実際にはあります。有力作品は自分が投票せずともノミネートされるだろうという思いこみです。11位から20位には特にこうした作品が目立つように感じます。しかし実際の読書傾向として、短いものや効果・効能が分かりやすい作品がより好まれるようになっていることも確かです。
書店員が「売りたい」作品と実際の店頭で「売れる」作品とは一致しないことが多いですが、売り上げが厳しくなれば、個人感情より市場動向を優先せざるを得なくなってきているのかもしれません。
本屋大賞は作家ではなく作品を評価する賞です。しかし書店員がいま好んで推している作家たちがいることも確かです。
伊坂幸太郎や辻村深月のように、以前からノミネート常連、いわば本屋大賞に近い作家たちがいたことも確かですが、最近富みに作家推しの傾向が顕著になったように感じられます。連続でノミネートされている作家として最近では青山美智子、町田その子、凪良ゆう、一穂ミチ、知念実希人あたりがその代表的な存在といえます。こうした脂の乗り切った作家たちの新作は書店員にとっても売りたい作品。店頭でも特別な展開をしているはずなので、ぜひ店頭でチェックしてみてください。
ノミネート作品から世相を感じることもあります。
ファンタジックな作品、大作が少ないことは逆をいえば、自分の生活と地続きの世界を描いた物語が多いともいえます。まったく予期しなかった世界的パンデミックという現実が数年続いて、小説という創作物に対して求めるものが、以前とは違ってきたのかもしれません。近頃はごく身近な家族関係をテーマにした小説に関心が寄せられています。ステイホームを余儀なくされて歪み、捻じれる人間模様もあります。「今年は毒親が出てくる作品が多かった」という感想も聞かれました。確かに、『汝、星のごとく』、『光のとこにいてね』、『宙ごはん』、『川のほとりに立つ者は』は、光と救いを感じさせながらも、生きづらい生活を象徴したような側面もありました。
不穏な空気を存分に漂わせた『爆弾』もまた、理不尽な事件が後をたたない現在を映し出しています。『君のクイズ』は昨今のクイズ番組ブームを見事に小説世界に昇華させた文学作品です。ラジオから流れる人の声も印象的な『月の立つ林で』を読んで孤独な心を癒された人も多いでしょう。エンターテインメントとしての読書を楽しみたければ、ジャケットから引きこまれる切れ味鋭い短編集『♯真相をお話します』と、強烈などんでん返しを堪能できる『方舟』がおすすめです。
あらためてふりかえれば2023年のノミネート作品はなんとバラエティーに富んでいることか。短めの作品が多いですが、いずれもピリッとした刺激がある。必ずや読者の琴線に触れる物語に出合えるに違いありません。
第3位 一穂ミチ『光のとこにいてね』文藝春秋
第4位 呉勝浩『爆弾』講談社
第5位 青山美智子『月の立つ林で』ポプラ社
第6位 小川哲『君のクイズ』朝日新聞出版
第7位 夕木春央『方舟』講談社
第8位 町田そのこ『宙ごはん』小学館
第9位 寺地はるな『川のほとりに立つ者は』双葉社
第10位 結城真一郎『#真相をお話しします』新潮社
2023年本屋大賞ふりかえり、いかがだったでしょうか。
仕事柄、全国各地の学校や図書館にお邪魔しておりますが、本屋大賞コーナーはどこでも利用者の関心も高くて賑わっているようです。ご一緒に「本屋大賞」ブランドを育てていっていただけると嬉しいです。
司書さんたちが選ぶ賞ともコラボができると面白いかもしれません。
これからも書店と図書館の垣根を越えて「読書のきっかけ」づくりをしていきましょう。
※まだお読みでない方は、以下の「POP王直伝! 学校・図書館に役立つPOP術」もぜひ参考にしてみてくださいね。
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