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本音はなあに?

母のバイト先の男性社員さんが会社を辞めるらしい。

自分の息子よりも少し若いその人(Aさん)のことを、母はわりとかわいがっていた。

母が同世代のバイト仲間を家に呼んで簡単な食事会をすると、Aさんが時々参加するぐらいには親しかった。

そんなAさんが会社を辞める。

どうやらご家庭の事情らしい。家族そろってAさんと奥さんの故郷に帰る決断をしたそうだ。

Aさんが会社を辞めることを知らされた日、母はバイト先から帰るなりわたしに愚痴っていた。

Aさんにも、会ったことのない奥さんに対しても、ブツブツ文句を言っていた。


だけど、母の本音はそこにはないと感じた。

本当はAさんが辞めてしまうことが、さみしいだけなんじゃないかと思った。


「文句ばかり言ってるけど、本当はAさんが辞めるのがたださみしいんでしょ?」

わたしがそう言うと、母は子供みたいに拗ねた顔をして黙ってしまった。



人は自分の繊細な部分に触れられるのを無意識に避けてしまう。
自分で触れることさえ怖かったりするものだ。



だから、「攻撃は最大の防御だ」とでも言わんばかりに、繊細で弱々しい本音を、文句や愚痴で無意識に守ろうとしてしまう。


だけど気づいてしまうと、言葉にすると、泣いてしまいそうなその本音は、伝えた瞬間、意外にも自分と相手を優しく包み込んでくれる。



「あなたが辞めてしまうとさみしい」



シンプルな本音を、言葉を、みんなが素直に伝え合えたらいいのにな。



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