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2021年の記憶に残った、所作の建築デザイン4選

最近エナジードリンクを嗜む癖がついてしまいました。人は歳を重ねると勝手に落ち着くものだと思っていたので、まさか40後半にして能力を底上げするためにエナドリでアゲる人間になるとはです。

このように人間の能力をアゲサゲすることは建築の効能としても存在します。しかも健康を阻害することは(多分)ないので安心です。とりわけ所作がうまくデザインされていると、人体への影響度が高まります。伝統的な手法でいうと飛び石を置いて、ぬかるみを歩かせないと同時に足元の設えに意識を向かせるとか。最近の手法でいうと広場の芝生を道路からシームレスに敷いて、利用しやすくするとか。

ということで2021年に伺った「所作のデザインがすごい建築」をまとめて今年を閉めることにします。

花山天文台の観測動線(京都市山科区)

花山天文台本館外観
花山天文台本館内部 ワクワクするぐにゃぐにゃ

建築家にファンが多い(気がする)大倉三郎設計の建物が本館、別館、歴史館(旧子午線館)とあります。観測用の大掛かりな機構を建築に組み込んだ建物です。一部屋根の開閉機構は川崎造船所がつくっていることからも建物に背負わされた機構の重さがわかります。しかし大倉三郎はそういう骨が折れる設計をむしろ楽しんでいそう。重い望遠鏡を上階に設置するため、建物の中心はほぼ望遠鏡の土台で占められ必然的に動線はぐにゃぐにゃ。そのぐにゃぐにゃを天文台に向かうワクワクを高めるシャレた表現に変えてしまっています。

花山天文台 歴史館(旧子午線館)これが昭和4年築!

そして象徴的なドームの傍らにひっそりとある歴史館の建物がいい。屋根が動く仕組みで、その屋根と壁の間が透かしてあります。めちゃくちゃ「軽い」。そして屋根が平たい(雨仕舞は?)。この感じはモダニズムどころか21世紀の建築家のセンスに近い気がするのだけど、昭和4年築とは信じがたい。

なおここは土日に見学会が催されています。「太陽スペクトル観望コース」が柴田一成京都大学名誉教授によるレクチャーとガイド付きで、とても充実していました。写真は「モダン建築の京都」グッズ売り場で購入した花山天文台カップ。日々高まります

仏生山温泉の露天風呂(香川県高松市)

浴槽はむずかしいので、外観と食堂を

「幾何学的」な「大空間」というのは身体の置きどころがなくて居心地が悪いことが多い気がするのですが、その予想をいい意味で裏切る、くつろげる施設でした。特に中庭を囲む露天風呂がすごい。半外部にあるヒノキとヒバのかけ流しの浴槽に身体をゆだねながら庭を眺める、この時間が本当にすばらしかったです。風や光の動きを直接感じられるためか、身体は心地よく弛緩させられながら五感は鋭く研ぎ澄まされ、理想的な身体感覚に近づけます。流行りの言葉で言うところの「整う」です。トリップアドバイザーの「旅好きが選ぶ!日本人に人気の日帰り温泉&スパ 2020」で日本一を取っているのは伊達ではありません……。設計は設計事務所岡昇平。岡さんたちの「仏生山まちぐるみ旅館」の取り組みは『AXIS』vol.210「超地域密着」特集で取材させていただきました。「あえてまちを盛り上げない」という逆説的な主張に説得力があり、面白かったです。

VOU / 棒の什器(京都市下京区)

アングル+バー+ジョイント、以上! という手すり

3階建の元印刷所を改修したギャラリー&ショップです。設計は加藤正基さん。手すりやカーテンレール、什器など細部が「高級ではない汎用品の組み合わせの妙」でできています。階段を一段あがったり、棚からお気に入りを探したりするたびに、いい違和感を感じられます。階段側壁にある唐突に壮大な風景写真のように、ときどき空間に介入するアートもポジティブ違和感を醸してくれます。展示などに応じて時々細かいところが更新されている様子です。

LOGの仕上げ(広島県尾道市)

素材にうっとり

集合住宅を改修した、6室のホテルとダイニング、カフェ&バー、ライブラリー、ギャラリー、ショップからなる複合施設。スタジオ・ムンバイを中心とするチームが設計。三和土や和紙を駆使した、やわらかいのに研ぎ澄まされた仕上げ。気持ちよすぎ。情報化により“非日常”とか”ラグジュアリー”が意味を持ちにくい現代ですが、触覚を駆使すればまだまだ表現できるのだな……と驚きました。

棚にエアコンを入れている

眼からウロコだったのがエアコンの置き方。非日常を演出すべき施設においてはなるべく隠したい装置です。そこで多くの場合、壁に埋め込んで隠すという方法が取られます。するとどうしても装置を無理して消すという処理をしていることが伝わってしまう。しかしここではエアコンをおさめた大きな棚を堂々と置いてます。ちまちました窮屈さを感じさせず、かつ空調の性能も十分に発揮させることができ、いいなと。

以上、他にもいろいろと思い浮かぶのですが、日付をまわりそうだったのでこのへんで。また住宅などは除外し誰でも伺えるところのみに絞っています。ライターはコロナ下でもそれなりに建築を観る機会があります。2021年は80件くらい建築を見学(※)したようです。毎回が新鮮な刺激で、建築の見方が少しずつ塗り替えられていきます。しかしすぐさま私見をまじえて語るというのは難しいことも多く、建築から授けられた新たな視点が整理されないまま蓄積されてしまいます。放置すると自分がどういう観点で建築を見ようとしているのか見失うことにつながり、あまり健康にもよくない……ですので年末にかこつけて一部を吐き出させていただきました。2022年もなるべく観点を定めながら建築を観ていきたいと思います。

※「建築を著作物だと認識し鑑賞する」くらいの意


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