20210407.絲の放散
重い錘に繋がれて、湖の底にゆっくりと沈んでゆく一本の太い絲が一つ。
錘が底に大きく踏み着くと、静かに大胆に、溜まっていた塵芥が舞い上がり
絲を、辺りを、深く深く、そして大きく包み込む。途端に絲は見えなくなり
ついには、絲は放散するのである。舞い上がった塵芥を払いのけるかのように。
太く纏まっていた一本の絲は、幾千もの無数の絲へと放散する。
散らばる。バラバラに。
放散した絲は互いに絡み合う。
一つに纏まる事を望むが、たくさん絡まっては願い叶わず。
考えが。思考が。想いが。行動が。言葉が。
湖の底から上へ上へと、水面の酸素を吸いたいと望むが。
減圧症のダイバーである。
生き残るにはどうしたらいいのか、答えは単純明快。
呼吸をするしかない。
分かってはいる。しかしできない。年月が経つにつれて塵芥が増えていく。
この湖の底で生きていくしかないのなら、適応していくしかないのだと。
無理やり現状を変えようとせず、その環境に適して応じる。
では
湖のなかで呼吸をするには。
エラ呼吸を。そう、私は大きいピラルクになるのだ。