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サイコパス社長に出会い、逃げるまでの100日間の話【第五章】

第一章〜最終章まで一覧⇒ サイコパス社長に出会い、逃げるまでの100日間の話

友達が逃げることに成功

仕事を始めて三か月が近づこうとしていた。
いよいよ友達が逃げることに成功した。

私が知る限りでは、友達は3度ほど辞める旨を申し出ては人手が足りないからと却下されていた。
ところがサイコパスに給料が振り込まれていない旨を話すと、その日は特に機嫌が悪かったようで揉めた勢いに任せてようやく辞めることができたようだ。

一方の私はというと変わりのない日々が続いていた。
明け方まで通話し、仕事に関係の無い話で怒鳴られ続ける。仕事を教わる時間はほぼ無く、この頃になると手元で仕事もしていなかった。
遠く離れた土地への出張には嘘をつかれ、強制的に何度も連れて行かれた。

ここでサイコパスとは別の症状も疑う。
二重人格だ。

実はサイコパスは一旦通話を切ってまたすぐにかけてくると、人が変わったような優しい猫なで声で話すのだ。

「今どうしてたの~?」と問われる。
どうしていたも何も、私はたった1分前まであなたに怒鳴られていた。
テンションがあまりにも違うため、猫なで声で話されるとそれに多少は合わせなければこちらの体力も消耗するばかりだ。
私は二人の人間に対応するよう、仕事モードとは打って変わり、トーンを落とし、先程とは異なる雰囲気を装い話をすることになった。

電話越しで微かに聞こえる。
サイコパスは社員に「今、〇〇(私)さんと仕事の話をしてるからさー」と言っている。
仕事の話なんかしていないのにも関わらず、だ。

私は社員ではなく外注扱いなので、GPSを入れる義務こそないものの、寝る時間、風呂に入る時間などは通話によって指示を出されていた。
「まだ起きていられるでしょ?」「今から風呂に入れ、出てくるのが遅い。頭を洗うのは2日に一回だけにしろ」といった窮屈な指示であった。

私もこの仕事を辞めたい。
サイコパスから逃げなければならない...。

「辞めます」と言うと
猫なで声で「どうして~?僕のことキライになっちゃった~?」の返事で話にならない。
もしくは「辞めるっていうことは僕の仕事を否定するってこと?今すぐ僕に対して謝れ!」の返事のどちらかである。

表情を変えずに人格を操ったように会話をしている姿を想像すると、まさにサイコパスそのものである。
二重の人格を装うことで、“サイコパス”像は完成していた。

いつの間にか友達と私の間で裏での社長の呼び名は“サイコパス”になっていた。


全てを相手のせいにする

友達が仕事を辞めたことについて、サイコパスは私にある言葉を吐き捨てた。

「僕を怒らせたことでストレスが溜まり、僕は彼女に強くあたるようになった。彼女が辞めたのは全部、僕を怒らせた君のせいなんだよ!」
「わかってる?彼女の人生を変えたのは、君のせいなんだよ!!」

友達は私のせいで仕事を辞めたのだ、と思うとさすがにショックである。
「友達がそのことで辞めたのであれば、私にも責任があるから辞めます」
と説明をしたが
「なんでだよ~怒っちゃった?僕たち、すっごく相性いいよね?」とのことだった。

毎回似たような言葉の繰り返し。ボタンひとつ押せば違う人格が出てくる。
このひとは人間という生き物ではないと思った。

IT関係の知識に長けているサイコパスは、ネット上の悪口のデータをかき集めると、人間の耳に吹き込み回っている恐ろしい機械のようだった。



サイコパスの元で仕事をはじめ、もうどれくらい経ったのだろう。
カレンダーを見ると...まだ3か月ほどしか経っていないようだ。
もう3年は関わったような情報量であった。

通話に出たら、サイコパスが「今度の休日に映画を観に行こう」と言った。
なぜ私がサイコパスと映画館に行かなければならないのか。

「その日は法事があるので、私は行けません」と、親戚の家で法事があるから3日間ある休みのうち、どの日であっても行けない旨を伝えると
「どうして僕の約束を断る!親戚の家に3日間も行くだなんて嘘だろ!映画を観に行って仲直りをしようって言ってんだよ!そんなこともわからないのか!」と大声で怒鳴った。

この人の中ではどうやら親戚の家に行くこと、法事も許されない行動のようである。
自尊心を傷つけられるからか、断られるということに敏感のようだ。

更に詳しく話を進めていくと、どうやら私はサイコパスと付き合っていることになっていた。

いつから付き合っていることになっていたのかさっぱりわからない...。
私はどこかで間違ったことを言ったのだろうか。

私は「いつ付き合った。付き合っていない」と否定した。
忘れかけていると思うから何度も言うが、この人からかかってくる通話は本来、仕事の話としてかかってきたものでなければならないはずである。
しかしどう考えても仕事の話では無い。


毎日朝だけ泣いて保っていたけれど、一日中泣くようになった。
なぜ泣くのかというと、理由はもうわからない。怖い、悲しい、辛い、あたりの理由だと思う。
泣いていることについて追求されると苦しいだけなので、サイコパスに悟られないよう涙を流しながら通話に対応していたため、涙を拭いたティッシュが床にたくさん転がっていた。

サイコパスから出された指示を書き込んだメモが目の前に大量に並ぶ。
一般的な会社であれば取る必要も無いであろう、ほとんどが仕事に直接関係の無いメモ内容ばかりだ。


もう限界に近付いている。いや、とうに限界は超えている。


かかってきた電話の通話ボタンを押しても言葉が詰まってしまう。

「おはようございます」と一声挨拶をしたら
「音程が違う、声が若い女らしく高くない、言い直して。そんなのでは男にモテないよ。今のは元気がない。今日は元気そうだが理由は?僕に言えない理由でもあるの?」「なんでなんで?」
「イヤホンを別の物に変えろ、他のヘッドホンはどうだ、まだ声がおかしい。スマートフォンを買い替えろ、僕が指示を出した機種にしないのがいけないのだ。言う事を聞かない君のせいだよ。何かしゃべれよいい加減にしろ」「怒っちゃった?怒っているのかって聞いているんだよ!!」

仕事の話が始まるまでに数十分から1時間は要する。
頭がおかしくなりそうだ。

いよいよ挨拶すらままなくなり、私は声を発することが困難になった。


話が通じないサイコパスから逃げる方法として最終手段を取ることにした。




続き ⇒  サイコパス社長に出会い、逃げるまでの100日間の話【最終章】



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