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【創作小説】猫に飼われたヒト 第46回 天才発明家アッシャー
夜の人間研究所。
レックスが自前で買った水やゼリーの入った袋を下げ、水の入った桶を持ってNo.18の隔離室に入る。
辛そうな18を横目に、桶の水で布巾を濡らし、絞ってそれを18のおでこに乗せた。
「すまない…もう少し耐えてくれ。必ず…この環境を変えるから」
そこでレックスははた、と気づいた。
「私は…少し前まではここに来ることすら怖がっていたのに、今ではこんな…」
苦しそうに眠るNo.18を見つめ、レックスは固く表情を引き締めた。
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場面は変わって夜の繁華街。
フルーメンはパブのカウンターで酒を飲んでいた。
パブのテレビからは人間のレプリカのニュース。警察はこのレプリカを作った犯人をアッシャーと特定し、探し回っているという。
フルーメンは、またこのニュースか、というようにテレビを一瞥した。
「まだ捕まらないんだってねえ。この犯人」
話しかけてきたのは、隣の席に座っていた猫だ。怪しい笑みを浮かべている。
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「ねえ。なかなかいい趣味してると思わない?」
「何のことだ」
「このニュースだよお。人間のレプリカを作ったっていう発明家。人間を飼えないから自分で作っちゃおうなんて、なかなか素敵な発想だよねえ〜」
「…僕には無意味なことのように思えるが」
「つれないなあ、もう〜!」
隣の猫はそっぽを向いた。
「…だが、その技術は素晴らしいと思う」
「え?!本当に?でしょでしょ〜!」
隣の猫が肩を抱いてきた。
「…ねえ。君も人間に興味があるの?」
フルーメンは遠い目をした。
「さあな…でも、ずっと人間のことを研究してきた」
「え!いいなあいいなあ。僕が知らない人間のこと、きっと君はいっぱい知ってるんだろうなあ〜いいなあ〜」
「そんないいものでもない……」
すると、隣の猫が自らのバッグを広げて見せてきた。
そこには、人間の頭部が入っていた。
フルーメンが目を見開く。
「まさか、お前が…」
怪しい猫がフルーメンの口を塞いだ。
「しーっ!そうだよお。ボクが天才発明家のアッシャー。ボク、もっともっと人間を作りたいんだあ。ねえねえ"研究者のフルーメン主任"。ボクに協力してくれない?」
「…?名前…」
気づけば、フルーメンの右隣に座っていたこの怪しい猫の仲間と思われる大柄な猫に、研究所のICカードを盗られていた。
もはや逃げ場のないフルーメンは俯いた。しかし次の瞬間、ククク…と笑い始めた。
アッシャーとその仲間が不自然に笑うフルーメンを不思議そうに見つめる。
「…アッシャー。いいだろう。お前に協力する」
次回に続く