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森のブック・カフェ

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noteで見つけた素敵な小説やZINEの蒐集帖
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記事一覧

ものすごい本ができちゃいました(全部妄想なの!?)

自主制作ZINE『妄想レビュー』発売開始!私、完全趣味で「夢」と「せつなさ」をテーマにした『yumetuna(ユメツナ)』というフリーペーパーを作っています。 つい先日vol.11が完成し、現在いろいろなお店に置いていただいているところです。 フリーペーパーは、私を中心に仲間と一緒に作っているのですが、その中で『妄想レビュー』というコンテンツを書いています(内容は後述)。 これが、一部の奇特な方(失礼)にとても好評で、いつか『妄想レビュー』だけの本を作りたいなと思って

バイク短編小説〜越川橋梁にて〜

ひとりになって   この春僕は数年ぶりに独身に戻った。  お互いにフリーランスという立場の僕たちふたりは「夫婦」というより互いの仕事を尊重しつつ、干渉し過ぎず、依存もしない良きパートナーであった。しかし僅かな接点である「暮らし」の中で相容れない部分が少しづつ、本当に少しずつ見えて来てしまったのだった。どちらかの不義理であったり、経済的な問題など明確なひとつの大きな理由がない代わりに、どこをどうすれば2人の関係が改善できるのか出口の見えない中で出た結論はこの関係を解消する事

磯野、退職する

「徹くん、話があるんだけど」  磯野が柚木に声をかけてきた。いつになく神妙な面持ちだったので、二人で会議室に入ってドアを閉めた。  ヨッシーさんやガシャポン、小峰くんには伝えた話なんだけど、と前置きした後、磯野が言いづらそうに話しはじめた。 「僕、編集部を辞めるんだ」  えっ、と思う半面、どこかで予期していたことでもあった。すでに三人に伝えたということは、彼らからの遺留の言葉は受け付けなかったということでもある。自分には事後報告なのだ、ということに気づいて、少しイラっとした

百年探しつづけた犬【SF短編小説】

「こんにちは」  僕はその声を聞いて、目を開けた。目線を下げて、足元を見下ろす。透明な壁の向こうに、空色の小さな巻き毛の塊がある。記憶ライブラリで照合する……『犬』。  巻き毛の中から、焦茶色の眼が見えた。丸くて艶々に光るその眼は僕の目を見つめる。僕も見つめ返し、発声してみる。 「こんにちは」  巻き毛の塊は尻尾をちょこちょこ動かして、その場でぴょんと小さく跳ねた。“それ”から、また声が聞こえた。 「良かった。起動した。君にはわたしが見える?どう見える?」  僕は答えた。

理想郷の墓掘り人【SF短編小説】

 マキハラは、“Twilight Clean Service”のロゴが大きく描かれた社用車に乗り込むと、行き先を入力した。助手席に相棒のコウダが乗り込み、マキハラにコーヒーゼリー飲料のパックを手渡した。車は目的地に向かって自動走行を開始した。  移動時の雑談は、彼の楽しみのひとつだ。自宅での会話も悪くないのだが、やはり人間相手の会話の方が楽しいと感じる。ただ、それを若いコウダに言うのは憚られた。”ロボットより人間の方が〜”という文脈が「差別用語」化して久しい。彼は、結婚は基