【詩を食べる】明日、死ぬかもしれないじゃん!(ドロシー・パーカー)/NY風キャロットケーキ
詩のソムリエによる、詩を「味わう」ためのレシピエッセイです。今日紹介するのは、NYで活躍したドロシー・パーカーの詩と、スパイシーなキャロットケーキのレシピです。ちょっと元気になれる詩とレシピをお楽しみください。
突然プツンとブチ切れる、けど…
何度も読んだ詩集をぱらぱらとめくっていて、ある詩に「これこれ!」と思うことがある。(そして多くの場合、「こんな詩、あったっけ?」となる)
わたしは「詩が飛び込んでくる」という言い方をしているが、そのときの心の状態にあわせ、心に届く詩は変わってくるものだ。
昨晩、『ガラガラヘビの味 アメリカ子ども詩集』(しかしそうアーサー・ビナード/木坂涼 編訳)をベッドで読んでいて、また詩が飛び込んできた。
詩人であり、辛辣な文学批評家として活躍したドロシー・パーカー(1893-1967)の「快楽主義の欠点」The Flaw in Paganism という詩だ。
「飲んで踊って、笑って嘘ついて、/恋に浮かれて、夜通し騒ぐ。」
鋭い知性と皮肉で”プリンセス・チャーミング”とNYの文人に愛されたドロシーらしく、都会的なはじまり。タイトルもピリッとしている。
この短い詩の終わり方が秀逸で、彼女らしさに溢れている。
この詩を読んで、ふふっと笑ってスッキリした。
近頃、実をいうと、わたしはストイックになりすぎていたのだ。
太るのを気にして甘いものはとらないことはおろか、ごはんをオートミールにしたり、牛乳やヨーグルトを低脂肪のものに変えたり。
しかしそういうのは突然、「プツン」とブチ切れるタイミングを迎える。
《あーもうヤダ!あした世界が滅んじゃうかもしれないじゃん!悔いがないように生きなきゃ!》
いわゆる「反動」というやつだ。それで、31アイスクリームに行って元気よく「チョコレートミント」を頼んだ。でも、やっぱり、体重を気にして「スモールサイズ」と小声でつけたした。
そんなタイミングだったから、ドロシーの「明日死ぬかもしれないじゃん!/(しかしそう上手くはいかない)」という言葉は共感してもしたりない。
But, alas, we never do.
"悲しいかな、そういうわけにもいかないもんだよね"
明るいため息。
"だってわたしたち、明日も生きてるんだもんね。そうでしょ?"
なんだか、ドロシーが大人になってからの女友だちのような錯覚すら覚える。
カフェを出たら、あしたへと歩き出す
この詩の読後感は、女友だちとカフェでおしゃべりして、お店を出たような気分に似ている、と思う。現実は何一つ変わらないんだけど、「そうだよね」とコーヒー片手に笑い合うだけで、心は軽くなる…そんな感じ。
気がついたらすっかり暗くなって、お会計をすませて外にでたら、新鮮で冷たい空気。「寒」と身をすくませて、「ま、お互いぼちぼちやろうね」なんて言いつつ女友だちとバイバイする。NYのビルはキラキラしていて、「まだみんな働いているんだ」なんて思いながら帰路につく。心はさっきよりあったかい。
ドロシーは「生粋のニューヨーカー」で、雑誌の編集もしていたから、そんな仕事帰りもあったんじゃないかな、と思う。
そうやって自分をなぐさめ、孤独を温め、鼓舞しながら都会の人は生きていく。
笑顔になるおいしさ、スパイシーでちょっとヘルシー。NY風キャロットケーキの作り方
詩人として、そして辛辣な批評家として名を馳せたドロシー・パーカー。彼女の生き様を見ていると、マザー・グースのこんな歌を思い出す。
チャーミングで、スパイシー。そして都会的。「明日死ぬかもしれないじゃん」と快楽をキメつつ、「そんなにうまくはいかないけどね」と現実的。
そうなると、スパイスのきいたNY風キャロットケーキだ。
シナモンやカルダモンの香りに、やさしい人参の甘さを引き立てる濃厚なチーズクリーム、香ばしいくるみ…すべてがベストマッチで、わたしも大好きなケーキ。
ケーキなんだけど、バターではなくサラダ油を使っているし、にんじんだって入ってる。チーズクリームも、生クリームより罪悪感が少ない…かな?
そういうわけで、夢を見つつ現実も見てしまう都会の女子にはピッタリのケーキなのだ。にんじんをすりおろすのがちょっと面倒だけど、混ぜて焼くだけ、失敗も少ないケーキ。ぜひ作ってみてほしい。
キャロットケーキだけでもおいしいけど、ぜひ爽やかで濃厚なチーズフロスティングと素朴なキャロットケーキのマリアージュを楽しんでほしい。諸々いやなことは忘れ、「ま、がんばるか」と思えるケーキ。
作者について
ドロシー・パーカー(1893-1967)アメリカの詩人、脚本家、評論家。
▼生い立ち〜最盛期
自称、生粋のニューヨーカー。5歳で母が死に父が再婚、家庭環境の複雑な少女時代を送ったのち、1914年に最初の詩を雑誌「バニティ・フェア」に売った。雑誌「ヴォーグ」で働いたのち、「バニティ・フェア」で代役で書いた演劇評論が評判になり、雑誌関係者とアルゴンキン・ラウンド・テーブル(出版関係者の社交サークル)を設立。彼女の批評的なコメントや短詩が評判を得るようになり、『ザ・ニューヨーカー』での執筆活動が彼女の人気を不動のものとした。1920年代だけでも、300ほどの詩を発表するなど、意欲的に活動。ブロードウェイやハリウッドの脚本も手掛けた。
▼ハリウッド進出以降
ハリウッドに活躍の場をうつしてからは、自身がユダヤ系の血を引いていることもあり、ハリウッド反ナチ同盟の設立に貢献するなど、政治に対してもその批判的な視点を向けた。手掛けた2作品『スタア誕生』『スマッシュ・アップ』がアカデミー賞候補となるものの、左翼政治に関与したとされ、ハリウッド・ブラックリストに載ったためハリウッドでのキャリアは潰えてしまった。晩年はアルコール依存するようになり、心臓発作で死亡。
自分自身の才能に対しては否定的で、「皮肉屋」としての評判を嘆いていたそうだが、その文学作品と鋭い批判に対する評価はなおも高い。
▼おすすめ本
この詩が所収されている『ガラガラヘビの味 アメリカ子ども詩集』は、先住民の読み人知らずの詩から現代の詩まで、発見とユーモアにみちた詩が楽しめておすすめ。日本語で詩を書くアーサー・ビナードさんが編訳。
あとがきの、「多くの人は、詩なんかつまらないと思っている。同時にみんなすっかり詩人であり、それぞれ神秘をごまんと抱えて生きているのだ」(エマソン)という言葉通り、みんなの日常にひそんだ詩情をすくいだしている楽しい詩集。「お行儀なんか気にしなくていい。そのまま指でつまんで、がぶっと食べて大丈夫」(「詩の食べ方」イヴ・メリアム)―アメリカらしいおおらかさも素敵だ。
終わりに
最後まで読んでくれてありがとうございます!
前回のほっこりあたたかな八木重吉の詩とちがって、スパイシーで都会的な彼女の詩とレシピ、いかがでしたか?
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《告知》イベントやります
1月30日、都内で詩を一輪の花と贈る『いち輪の詩』ワークショップをします。詳しくはリンクから。参加無料!ぜひご参加ください。