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わたしが、わたしを大事にするために。夜に一篇の詩を読んで息をつく習慣
手洗い、歯磨き、おふろ。わたしたちは毎日、体の汚れを落とす。部屋もきれいにする。では、心は?
心のなかにたまったものをきれいにして、明日を迎える小さな習慣をご紹介します。
愛しさと、しんどさの間で
1歳の息子を育ているわたし。21時になったら子どもを寝かせたい。が、まだ遊びたくて、子はグズる。子守唄を歌って、ゆらして、ふとんから脱走するのを捕まえて、なんとかかんとか寝かしつけて。やっと寝た…と思ってリビングに戻ると、床もテーブルもぐちゃぐちゃ。時計をみると22時。
…とりあえずソファに倒れ込む。そしてよっこいせ、と気合を入れ、まずはお皿を洗いはじめる。床やテーブルの食べ残しを掃除し、床を拭き、おもちゃを一つ一つ拾い上げて片付ける。毎日、毎日、そんな地味なリセットを繰り返していく。
息子は誰よりも大事で、愛おしい。だからお世話する。でも、ちょっとだけ思う。わたしのケアは誰がしてくれるんだろう。わたしも、ケアされたいなぁ。
一日の終わりに、手軽な「旅」へ出かける習慣
そんな一日の終わりの、自分のためだけの、ちょっとした習慣。本棚から、詩集を取り出す。そしてパラパラめくって、いくつか気になった詩を読む。それでおしまい。簡単である。
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なぜ、詩集か。それは、どこから開いて、どこで終わってもいいからだ。筋をたどり、「続き」を読む小説とちがって、詩はどこまでも気軽だ。
たくさん登場人物が出てくるわけでもないから、「あれ、これ誰だっけ?」という事態にもならない。産後、「わたしのなかのシナプスというシナプスが遊離してしまったのでは?」と不安になるほど記憶力が後退したので(マミーブレインというらしい)、せいぜい「わたし」ともう一人くらいしか出てこない詩は助かる。
一篇だけ、じっくり味わうのもいい。それなら5分もかからない。そのたった5分で別の世界にふわーっと旅をし、ただありのままの自分に戻れるのだから、詩はもっともお手軽なリフレッシュ旅行だ。眠たくなったらぱたんと閉じて、おやすみなさい。
鎧を脱ぎ、「わたし」にもどる時間
寝る前に詩を読む習慣は、激務をこなしていた会社員時代にはじめた。日々のストレスを、パーッと飲みに行ったり、ショッピングや旅行に行ったりして晴らすのもいいけれど、溜め込んだぶん反動が大きいのは不健全な気がしていた。そんなとき、小学生の頃から好きだった詩は、もっとも手軽な癒やしだということに気づき、また手を伸ばした。
出張で日本中を飛び回り、毎日23時ごろに帰っていた頃も、うす汚れた冬空のオリオンを見上げ、詩を一篇読むことはできた。むしろそれをしないと、ずっと「戦闘モード」がオンになっていて、鎧を脱げないような気がして。
今、母となり、使える時間も体力もゴリゴリっと削られていくなか、またこの習慣のパワーを感じている。
おやすみ前に、読みたい詩
眠るまえに読みたい詩をすこしご紹介したい。まずは、『自分のための子守歌』(PHP研究所)。作者は『のはらうた』でおなじみの工藤直子さん。78歳となった詩人が、大きくなった子どもたちに捧げる人生の歌は、いたわりに満ち、まさに今のわたしに必要なもの、という感じがする。
そのなかに「だっこ」という詩がある。
「風は/いろんなものを/だっこする」からはじまる、やさしい一篇。鳥は、「空のゆりかごであくび」し、花は風にだかれて、「葉っぱをまくらに」眠る。そして…
あ いま
風がひろがった
地球をだっこするのかな
ああそうか、と思う。いつも息子の寝かしつけをしているわたしも、大きなものに揺られているんだ…。心がふわんと、柔らかくなる。そよそよと、心地よい風が通る。
また別の日は、谷川俊太郎が仏典『ダンマパダ』の英訳にインスパイアされてつくった『すこやかに おだやかに しなやかに』(佼成出版社)をひらく。
おだやかにあれ こころよ
のびやかに しなやかに はれやかに
今日、豆腐ハンバーグを床に投げつけた息子に、イラッとしてしまった…夫に、いらんことを言ってしまった…そんな自分の心のよどみも、スーッとなくなる気がする。明日はきっと、のびやかに しなやかに はれやかに…。
こうしてわたしは、「わたし」を取り戻す。
体をきれいにするように、心のホコリも洗い流す
わたしたちは一日の終りにお風呂に入り、歯磨きをして、汚れを落とし、明日にそなえる。散らかった部屋を掃除し、リセットする。でも心はどうだろう。心にもまた、少しずつホコリがたまっていくのかもしれない。詩を読むと、知らずに溜め込んだものが、洗われていくようで、「あ、疲れてたんだなわたし」と気づかされる。
わたしが、わたしを大事にする、5分の習慣。
自分とつながり、世界へ心をひらく、静かな時間。
毎日、体も心も、きれいに洗い流す。詩で潤いをチャージする。
明日もきっと、美しい朝を迎えられるだろう。
▼紹介したおすすめの詩集
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