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文庫本のむこうがわ

ここに「2015年12月17日 19:55」の、noteの下書きがある。

タイトルは「ストレスがあるなら文庫本の小説を携帯すればいいと思う(電子書籍でもいいけどさ)」だ。

ふむ。いかにも思いついたことをそのまま走り書きしたようなタイトルだけれど、いったい4年前のわたしは、なにをどんなふうに書いたのか。

小さなタイムカプセルをあけるような気持ちで、無機質なタイトルをそっとクリックする。

カチッ。

……と、中身はまさかの空っぽだった。

一行どころか、一文字も書いていない。おそらくあとで書こうと思って、頭にポンと浮かんだことを、タイトル欄にメモしただけらしい。

なんだ、空っぽかあ。

拍子抜けしたような気持ちでため息をつく。当時の気持ちのてざわり、断片でも残っていると思ったのだけどなあ。

過去の自分にヒントをもらおうと思ったアテがはずれて、ぼうっとガラス窓の外に目をやる。

どうやらそれは、記憶をたぐりよせて思い出すほかないらしい。

そもそもなぜ、その古い下書きのことを思い出したのかといえば。それは今回、しいさんに「日常×旅」というお題をもらったからである。

お題をもらって、まずパッと頭に思い浮かんだ光景は、満員電車の中で立ちながら文庫本を読みふける、20代終わりの自分の姿だった。

あのころ、仕事カバンの中には常に1、2冊の文庫本が入っていた。

もうちょっと正確にいうと、仕事カバンはリュックだったので、文庫本はiPhoneやショールなんかと一緒に、小さなミニトートに入れていた。ちょっとしたすきま時間に、なるべく工数少なく、サッと取り出せるように。

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どうでもいいことをすごくしんけんに書いています。

<※2020年7月末で廃刊予定です。月末までは更新継続中!>熱くも冷たくもない常温の日常エッセイを書いています。気持ちが疲れているときにも…

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