コメディ礼賛 (1)映画「スターリンの葬送狂騒曲」怖い人間喜劇
子供の頃からコメディが大好きで、小学校から帰るとテレビで、いわゆるアメリカン・コメディを毎日のように見ていました。土曜日は吉本や松竹の新喜劇。
小説では、筒井康隆の「俗物図鑑」と井上ひさしの「吉里吉里人」がコメディ系の双璧と感じ、両巨人が審査者を務める小説賞に応募したこともあります。
コメディ系の映画は、キャメロン・ディアス主演のラブコメ系など、普通のドラマの随所に笑えるネタを散りばめたものと、現実の政治や社会を諷刺したものに大別できます。
どちらも好きですが、現実諷刺型では笑いも重くなってきます。
後者の代表作は、チャップリンの「独裁者」ですが、最近の作品では、なんといっても表題作「スターリンの葬送狂騒曲」でしょう。
死にかけている権力者・スターリンを前に、側近たちが、本音と建前の間で右往左往しながら権力闘争を繰り広げる、人間喜劇です。
カリカチャライズされているとはいえ、かなり史実に沿って作られているようです。
倒れたスターリンをベッドに運び、
「医者を呼べ!」
と言うと、
「有能な医者は、スターリンの毒殺を試みた嫌疑で、すべて殺されたか、牢の中です」
「ヤブ医者しか残っていません」
と、《笑えない》答えが返ってきます。
細部はドタバタですが、大きなうねりとして、独裁政権では、体制全体も、権力者個人も、
《平気でウソをつく》
ことが常態化し、社会として《麻痺》していくんだな、と改めて感じます。
この喜劇の背後に、おびただしい恐怖と悲劇が存在していることを、ウェットにならないように、でも誰の目にも明らかなように描いているところが、スマートです。
この映画は、ロシアでは上映禁止とのことで、政権が変わっても、《本質を隠す/嘘をつく》部分は変わっていないのかもしれません。
ソ連は崩壊しましたが、《平気でウソをつく》国は今もあります。
独裁・全体主義的国家ばかりかと思っていたら、
「甘いわ!」
と頬にビンタを食らわせたのが、ドナルド・トランプ氏でした。
彼は、私たちに、《平気でウソをつく》国家リーダーはどこにでもいる、ということを教えてくれました。感謝しなくては。
なお、この映画を見た後に思い浮かべた和製コメディの傑作は、業田良家の一連の政治風刺マンガです。
「独裁君」「それ行け! 天安悶 伝説の独裁者が現代に降臨」は特に素晴らしく、愛読者として少々心配になるくらいです。
当事国では当然、《発禁》でしょうね。
「ど忘れ日本政治」も秀逸で、こういうコメディに自分の行状が取り上げられ、からかわれても怒らない(のか、怒っているが我慢している?)日本の政治家は、地球規模で見れば、
《たいしたもの》
なのかもしれない。
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