教会音楽と文化のみち(街で★深読み)
先週、高校時代の友人に誘われ、別の友人がチェンバロで参加するミニ・コンサートに出かけました。
東区主税町の教会です。
ここは、西は名古屋城、東は徳川園(尾張藩2代徳川光友の隠居所跡に築造された大名庭園)に至る『「白壁・主税・橦木町並み保存地区」』の一角です。
この辺りは、江戸時代は尾張藩の武家屋敷が並んでおり、その跡地に大正時代から昭和初期にかけては企業家が邸宅を構えました。江戸時代に創建された寺社も多く、明治以降に建設された官公庁の建物などを含めて『文化のみち』とも呼ばれています。
コンサートは、
弦楽四重奏
+チェンバロ
+ソプラノ+メゾソプラノ
という構成でした。
ご存じかと思いますが、チェンバロはグランドピアノのような鍵盤楽器です。ただし、その内部では、弦を弾いて音を出す仕組みになっています(英語ではハープシコード)。
冒頭にバッハから2曲、その後にペルゴレージの声楽作品『スタバト・マーテル』全12曲が演奏されました。
クラシックは普段ほとんど聴かない私ですが、演奏も、女性ふたりの歌声も楽しめました。
ただ、配られたパンフレットにある歌詞の対訳を見ると、聖母マリアが息子キリストが拷問を受け苦しむのを見て嘆き悲しむといったもので、ある意味、とてもキリスト教会らしい選曲でした。
30代で米国生活をしていた頃、誘われて何度か日曜礼拝に出かけましたが、ほぼ毎回、聖書の一部を読み、キリストの苦難と彼が起こした奇跡の話に終始していました。
我々が『現実世界』で生きる上でのヒントになるようなトークはほとんどなかった。
(うーむ。科学技術が発達し、論理的に説明できないことには納得しない現代人たちに、こんな説話が通用するのだろうか?)
── 疑問でならなかった。
ただその後、あの国には、天動説を信じ、進化論を信じない人が少なからずいることを知り、さらに最近では、『ディープ・ステート』に代表される陰謀論を信じ、ドナルド・トランプの本質が「Me First」であることを信じない人が大勢いることを知りました。
(これは……子供の頃から繰り返し繰り返し『奇跡』を信じるよう教えられてきたことと無関係ではないのでは?)
── そんな気がしてならない。
いえいえ、音楽は素晴らしかった。
自分もあんな風に弦楽器が演奏出来たらどんなに素敵だろうか ── そう思ったほど。
さて、1時間あまりのコンサートが終わった後は、せっかくなので『文化のみち』を歩いてみました。
この日は寒風が吹きすさんでいましたが、ニットの『正ちゃん帽』を幼児のように被り、ジジイは風の子とばかりに歩き回りました。
まずは『文化のみち二葉館』、福澤桃介が川上貞奴と住むために建てた豪邸です。
貞奴はこの時代、私生活だけでなく、事業面でも電力王・福沢桃介を支え、彼が手がけた発電所の中で最大規模の木曽川・大井ダム建設にあたり、彼女は何度も現場に足を運んだそうです。
今も恵那湖のほとりにある工事現場の写真には、他の関係者と共に、このカップルが中央で堂々と写っています。
桃介と貞奴は、一般的イメージ『金満事業家と愛人』とは異なり、馴れ初めはふたりとも10代半ばの頃、その後両者とも結婚しますが、少なくとも桃介はずっと彼女を思い続けていたようです。
続いて、旧豊田佐助邸。発明王・豊田佐吉には平吉・佐助とふたり弟がおり、末弟の佐助は実業の才があり、織物業を営んで、佐吉の発明を支えました。
次は旧春田鉄次郎邸。陶磁器貿易商として成功した春田鉄次郎が武田五一に依頼して建てた住宅です。
この人のことはほとんど知りませんが……
瀬戸、志野、織部など伝統陶芸はもちろん、Noritake Chinaで世界に知られた旧・日本陶器もこの地方にあり、陶磁器産業は大きなビジネスでした。
アール・デコ調の建築物『名古屋陶磁器会館』もこの地区にあります。セラミストの端くれとして、私も何度か訪れました。
さて、続いては、京都の紙問屋・中井巳治郎の別邸だった屋敷で現在は料亭の『か茂免』。
自分には縁の無い高級料亭と思っていましたが(いや、今もそうですが)、豊島将之叡王に藤井聡太2冠(棋聖・王位)が挑戦した将棋叡王戦の第3局が2021年8月9日にここで開催され、藤井2冠がここの名物『ぽんきし』を昼食に注文して話題になりましたね。
かなり寒かったけれど、いい散歩ができました!
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