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謎の猫オバサン、出没(街で★深読み)
その老カップルを見たのは2度目だった。
前回はその喫茶店で、窓越しにぼんやり駐車場を見ていたら、車から降りてきた。
今回はその店の中、ひとつ離れた席に座り、私たち夫婦と同様、モーニングセットを頼んだ後、何事も生じていないかのようにふるまっている。
── え? この人、こんな時まで一緒なの?
前回は3か月ほど前だっただろうか、助手席から降りてきたそのオバサンを見てギョッとした。
胸に白猫を抱いているのだ ── ちょうど、人間の赤ん坊を「抱っこ紐」で、しかも前向きに抱いているかのように。
(そりゃ、マズイだろ ── 猫カフェじゃないんだから)
しかし、よく見ると、それはどうやらぬいぐるみのようで、しかも、抱いているというより、オバサンの胸にくっついているようだった。
(巨大なネックレス? いや、巨大な ── 実物大アップリケの付いた服か??)
オバサンは70歳ぐらい、続いて運転席から降りて来たオジサンは70代半ばぐらいか、特に何事もないかのようにふたり並んで店の方に向かった。
── つまり、彼らの日常風景のようだった。
「猫」はどうやら、服の胸の「袷」から大きめの顔を出しているように見えた。
2度目の今回はすぐそばの席に座ったのでよく観察することができた。
猫オバサンは、猫と共に座り、モーニングセットを食していた。ちょうど人間の幼児をひざに抱いているように見える。本当の幼児なら、じっとしておらず、コーヒーカップに手を出して惨事を招いていることだろう。
実物の猫と比べるとやはり顔がデカい。「不思議の国のアリス」に登場する「チェシャ猫」はこんなかもしれない。
初見ならギョッとするだろうが、ウェイトレスにとっても常連さんの日常風景なのだろう、淡々と注文を取り、サーブしている。
「あれ、一体何だろうね?」
喫茶店を出てから、私たちの推理は始まった。
「すごく可愛がってた猫が亡くなった後、そっくりのぬいぐるみを作らせて肌身離さず ── ってのは?」
「ホントに肌身離さずだね。食事しながらも胸から話さないんだから」
「ある意味、猫が生きていた時よりも一体化できてるわけね。ああやってどこにでも連れていけるのだから」
「ペットを可愛がっている人は、お葬式もちゃんとやるらしいからね ── 『ペットロス』も大きいだろうなあ」
「……ひょっとしたら、あのぬいぐるみの中に、その猫チャンの骨壺が入っていたりして」
「……あるかもしれない」
小説家なら、もっと奇想天外な推理をするところだが、あのカップルの日常に完全に溶け込んでいる「猫」を思うと、なんだかそれは憚られるのであった。