「DIYER 信雄」
D I Y好きな信雄が、今日もトンカンと何かを作っていた。
少し小振りな、ワインラックだった。
菜乃がワイン好きなことを知ってから、何かしら役に立つもの、
喜んでもらえるものを作って、びっくりさせたかった。
簡単な設計図を書き、材料の選定をメモ書きしていく。
木の材質や厚み、仕上げの塗料の選定、コルクボードを、
クッション材として張り合わせる等も、考えていた。
来週は二人の記念日、初めて出会ってから丸2年が経っていた。
作業は、昼食を食べることも忘れるぐらい没頭して行われていた。
順調に作業が進んでいて、あとは下地に木工パテを塗って、
凸凹を無くしてから、ニスを塗って乾かす。
ビスが目立た無いように、ビス頭に目隠しシールを貼り付ける。
乾いたあと、ラッカー塗装をしてからコルクボードを貼り付けて完成。
信雄はDIYERまでいかないが、とことん見栄えにこだわるタイプ。
最後の最後まで、手を抜か無いで仕上げていった。
記念日当日、信雄の自宅に菜乃がやってきた。
オードブルとケーキが、小さなテーブルにセットされていた。
「さぁ、座って」 「うん」
乾杯をするためにワインを持ってきた信雄は、
合わせてワインラックも持ってきた。
菜乃は、ワインレッドに塗られたワインラックを見て。
その後、信雄の顔を見た。 右頬には、少し塗料が付いていた。
まるで照れていて、頬を赤らめているかのように。
「一生懸命、作ってくれたのだね」 「うん」
返事するや否や菜乃が、右頬にやさしくキスをしてくれた。
信雄は、照れながらも嬉しくて少しのけぞってしまった。
二人の記念日、無事に祝うことができた。
お金が無いので、高級なものは買え無い。
自宅で祝う細やかな記念日。 そんな二人の物語。
ワインラックとワイン、長く愛され使い続けて、
二人の関係が、赤ワインのように色濃くなっていった。
今日は、出会ってから20年目の記念日。
あの日と変わらず、細やかな記念日。
お金をかけ無いで、二人で過ごす。
派手なことは、全く求めていない。
ワインラックはボロボロになってしまったが、
熟成されたワインのように、二人の関係は深く染まっていた。
愛の色のように、深紅の薔薇のように、赤く色濃く
※この物語は、フィクションです。