「ナイトドライブ」
外は、霧雨のような雨が降っている。
今は午前零時、時折、虫の鳴き声が聞こえてくる。
森の木々も寝静まり、静かな夜がやってくる。
徹(とおる)は車を走らせて、何処かへ向かおうとしていた。
駐車場まで小走りに駆けて、車に乗り込むエンジンをかける。
小気味よいV6エンジンの唸りを聞き、アクセルを踏み込む。
雲の動きが早く、霧雨も止み、漆黒の闇夜が訪れていた。
ヘットライトを点灯させて、次から次へと交差点を通り過ぎる。
高速に乗って、クルージングモードへと突入しようとしていた。
カーステから流れる音楽は、コンテンポラリーミュージック。
スピーカーの振動を楽しむかのように、少しボリュームを上げて、
ナイトドライブを楽しむ。
昨晩のことが忘れられなくて、徹は車を走らせた。
あの日あの時、あんなことを言ったから、忘れられなくて、
ドラマや映画のような世界のようだけど、リアルな出来事だった。
どんな時も一緒に語り合った大切な人が、一人でイタリアへ旅立っていく。
料理の修行のために、夢を叶えるために、どうしても行きたいと、
いきなり言われて、徹は動揺した。
徹はそれを聞き、心にもないことを言ってしまった。
「いってらっしゃい」
たった一言だけ、言ってしまった。
本当は、行って欲しくない気持ちを抑えきれなくて、
伝えたかったのだけど、相手の気持ちを尊重し過ぎたのだろうか。
あの時の一言で、大切な人からは 「ありがとう」って一言だけ
言われて、そのまま別れることになった。
今、向かっている先は、大切な人の元へ向かおうとしている。
本当の気持ちを、少しでも伝えたくて、車を走らせている。
深夜のドライブが、明日へつながるような予感を感じながら、
徹は交叉するヘッドライトの光の先を見つめながら、
車を走らせる。
暫く走ると、フェリー乗り場が見えてきた。
このまま行くと、遠く離れた離島までのフェリーに間に合う。
明日の朝には、大切な人の元へ辿り着く。
徹は、ぽつりと、
「後悔したくない」と、静かに呟いていた。
目には、うっすらと涙が滲んでいた。