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ソラリス
"私に望みはなかった。しかし、私の中ではまだある期待が生きていた。それは彼女の後に残された、ただ一つのものだ。"1961年発刊の本書は、人間以外の理性"未知の他者"との接触は可能か?の問いを軸に、精神分析、ラブロマンス他のメタ小説としても読み解けるSF小説不朽の名作。
個人的には、随分前に著者と解釈の違いを巡って【大喧嘩が起きた事で有名な】タルコフスキー監督の最初の映画化作品(1972年)を観てから、なかなか原作を読む機会がなかった事から今回、本書を手にとったのですが。
難解な印象だった映画と違い、ググッとテンポよく宇宙ステーションを訪れる所から始まり【限定された空間、登場人物】の間で起こる奇妙な現象を一人称視点でサイコホラー的に描く序盤から、絶対的他者性の前に次第に【無力感、必然としての物語の停滞、倦怠】へと転換していく本書は読みやすくも、合間にソラリス学というトリビア的重層的世界の紹介も挿入される事で、奥行きや深みのある読後感を与えてくれました。
また、映画において特に顕著であった様に本書の主要テーマとしては、あくまで【地球外理性との接触】であるとは言え、訪れたものの心理の奥底まで睡眠中に読み取り、つくりあげられた【恋人との再会、関係性の変化、再びの別れ】といったラブロマンスの要素は作中では語り尽くされていないからこそ読者に想像の余地を与えてくれていて。仮に著者の意図とは違っても、こちらもシンプルに胸を打たれます。
絶対的に違いのある他者との接触を描く作品、哲学的な作品を探す誰か、あるいはオールタイムベストなSF小説を探す誰かへ。また「ペンギン・ハイウェイ」好きな人にもオススメ。