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ムッシュー・テスト

"ことはつまり、ゼロからゼロへの移行だ。ーそして、それが人生なのだ。ー無意識にして無感覚から、無意識にして無感覚へ。"1896年から発表の本書は、フランス第三共和政を代表する詩人唯一の連作小説集にして、著者の鏡像的分身にして精神を具現化した存在、テスト氏による思索的小説集。

個人的には著者に関しては、堀辰雄の『風立ちぬ』にて一節『風立ちぬ、いざ生きめやも』が引用されている位しか知らずに本書を手にとったのですが。

"自分が何を言っているのかわかっていない、ということがわかっている人間!ーそういう人間がひとり、あなたの知り合いなんだ!"とテスト氏自身が作中で発言しているように、語り手と一緒に劇場に行ったり、手紙であったり様々なわかりやすい設定、形式こそ与えられているものの、基本的には【物語としては難解な小説】だと感じました。

一方で、若かりし時から名声を得た一方で、マラルメやランボーといった詩人たちの作品に衝撃を受けた著者自身の内面の危機が形となって、40代の変わり者の株屋ーテスト氏に姿をとっていると考えると、才能への自信と傲慢さ、一方で周囲の無理解への孤独や絶望といった整理できない感情が言葉になっているように感じられ、わかったとは確実に言えずも【伝わってくる何か】がありました。

周囲に具体的な説明はできない何かを抱えている誰か、あるいは詩集の様な小説を探している誰かにオススメ。

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