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セラピスト・トレーナー向け 野球肘を治すために必要な解剖学 :解剖の知識があなたの治療を助ける!

投球リハ研究会です。
この投稿はセラピスト・トレーナー向けに記事を書いています。
専門用語が続きますがご容赦ください。

今回は野球肘を治す上でベースとなる必要な解剖学的の知識について、ご理解を深めていただけたらと思います。どの疾患に対してもですが、解剖やその機能を知ることは治療・コンディショニングを助けてくれる大きな武器となります。肘の解剖について得意な方は確認のために、苦手な方は整理のために使っていただけますと幸いです。

目次


– 野球肘を細分化
– 骨形態と機能 :なぜ骨を知る必要があるのか
– 軟部組織の構造と機能 :肘を支えるのは靭帯か筋肉か

野球肘を細分化

投球障害の代表格と言っても過言ではない『野球肘』ですが、大きく【内側】、【外側】、【後方】に分けて考えられています。もっと細かく後内側、後外側などといったものも見受けられますが、私は3部位で考えます。今回はその中でも最も症例数の多い【内側】に絞って話を進めたいと思います。

骨形態と機能

みなさんご存知の通り、肘関節は上腕骨、尺骨、橈骨から構成されています。今回は内側ですので、上腕骨と尺骨で構成される腕尺関節に着目します。腕尺関節の主な機能は肘の屈伸です。背側に目を向けると伸展時には尺骨の肘頭が上腕骨の肘頭窩にはまり込む形で関節が安定します。同時に伸展に伴いやや外反します。一方で、前方は鉤状突起が滑車を辿るように動き鉤突窩にはまり込みます。内側には上腕骨内側上顆があり、ここから内側側副靭帯や前腕屈筋群が起始します。尺骨には鉤状結節、その後ろに尺骨神経が通過する尺骨神経溝があります。

POINT
これらの骨の形状や部位、動態を知ることにより触診や関節運動の理解が深まると思いますし、医者やセラピストとのディスカッションの際には混乱を防ぎますので非常に役立ちます。医者に患者さんの状態を伝えたいけど骨部位や表現がわからず伝わらなかった経験はありませんか?わたしは何回もあります😭

軟部組織の構造と機能

腕尺関節の内側には内側(尺側)側副靭帯(UCL)が存在します。UCLには前斜走線維滑車(AOL)、後斜走線維(POL)、横走線維があります(図はこちらのInstagram投稿をご覧ください)。こちらの文献によりますと、AOLはどの可動域でも一定の張力があり、外反ストレスに対して主となる支持機構となります。一方、POLは屈曲位で緊張するため、屈曲域での支持性に役立ちます。
さらに細かくみますと、AOLは前方と後方で線維束が分かれます。前方束は60°以下で緊張しますが屈曲していくと緩むので、屈曲位では後方束の支持性の方が高まります。その後方束は60°以上で緊張します。投球中に外反が加わる肘の角度は50-80°といわれていますので、acceleration phaseで肘が伸展する(俗にいう頭から手が離れながら外旋する)投手は前方束が損傷しやすいかと考えています。要するに損傷したUCLの部位と外反ストレスの加わり方が関連する可能性が考えられます(詳しくはこちらのInstagram投稿をご覧ください)。
UCLの破断強度は34Nmであり(Ahmad. 2003)、投球時に肘内側に加わる負荷は64Nm程度と言われています(GS Fleisig. 1995)。要するに単純に外反ストレスがUCL単体に加われば靭帯はすぐ破綻することになります。もちろんそのストレスを胸郭や肩などで分散することにはなりますが、今回は肘の話ですので割愛して、そもそもUCLは単独でその負荷を受けるのでしょうか。
UCLの表層には前腕屈筋群が覆うように存在しています。実はUCLと前腕屈筋群は線維が結合しており、協調して関節包を補強し外反ストレスを制動します(S Milz. 2004)。要するに筋機能はなにかしら靭帯機能に影響を及ぼす可能性があるということです。その補強する筋ですが、前方と後方に分けると理解しやすいようです。これらの文献によれば、円回内筋、橈側手根屈筋、浅指屈筋、長掌筋の腱は前方共同腱を構成し、中でも円回内筋と浅指屈筋は関節包に直接付着します。後方は浅指屈筋と尺側手根屈筋が後方で共同腱を構成し、どちらも関節包を補強します。加えて、上腕筋も前方より関節包に付着するようです(K Ohtoshi. 2014)( S Hoshika. 2019)。(詳しくはこちらのInstagram投稿 もご覧ください)

POINT
いずれにしても筋や腱が靱帯や関節包を補強することは間違いなさそうです。
ということは、筋機能を改善すると関節の安定性が向上する可能性を示唆すると同時に、機能改善のためには筋の機能解剖について詳しくなる必要があると思います。実際、筋機能を改善するだけで投球時痛が消える、外反ストレステストが陰性化するなどといった反応がみられます。患者さんや選手に喜んでもらえる治療上の武器を得ることになると思います!

今回は野球肘のなかでも内側の症状を理解するために必要な骨と靱帯の解剖についてまとめました。次回は野球肘に関わる筋肉の解剖と機能を報告する予定です。

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