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分解と再構築-メイキング

月刊!スピリッツ2024年11月号(9月27日金曜日)に掲載されました。


かわいい表紙

こちらに、著作「分解と再構築」(秋山視点)が掲載されております。

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分解と再構築_ビッコミ

かましてるな〜と思ったらいいねとかでも押しといてよろ

まえがき

この記事では「分解と再構築」制作時の色々な色々を書いていきます。前作「kaiko」では制作の手法を主軸にお話したので、今回はコンセプト周りを話していこうと思います!内容が難解な部分が多々ありますので、その辺の解説等を交えながら、だらだら書いていきます!

3DCGやAIを用いた前作の読み切り「kaiko」についてのメイキングはこちらから是非!

「この物語はこういうコンセプトで〜こういう小ネタが〜」みたいなのって自分でやるっけ?恥ずくない?ダサい?正直ダサい?解説とか蛇足というか野暮というか無用というか、それが分からなくても面白いやつが本物なんじゃない?辞める?辞めない



制作スケジュール

分解と再構築の制作工程とそのスケジュールを一応メモっておいたので、書いていきます。今回は締切ヤバすぎンゴだったので、僕の焦燥と憂慮も共にご覧あれ!

分解と再構築-進捗

①プロット(12月頃)

この時期は絶賛「kaiko」の原稿執筆中で、脳のリソースというよりも身体的なリソースが足りていなかったので、何かにまとめながらというよりは、脳内で全体を構成していました。「物理学をモチーフに話を考えよう」というネタ自体は前からあったので、それを恋愛と絡めて作ることを決めました。

元々、新年に短期的な目標を立てていて、それが「年内に3本読み切りをやるZE★」だったので、同時に他のネタも考えていました。編集者の連載やれ圧をひらりマントで躱し、反作用でネームを描き始めます。他のネームが通ってその原稿作業が途中で挟まり、目標は余裕で達成するのですが、毎日モニターに磔なっていたので、学生時代を思い出しました。

その後、脳内で構成したものの問題点を紙に書き出し、それを元に担当と打ち合わせをすることにしました。

ぐちゃぐちゃの紙にぐちゃぐちゃの文字でまとめた古代文字をなんとか解析・解読したので、書いておきます。


②打ち合わせ(2月頃)

問題点

①主人公と谷崎の関係性が薄いことで、出会えた際のカタルシスが弱い
→ドラマ部分の強化が必要

②谷崎が消失した理由が分からない
→テーマの「量子」が難解

これらを元に打ち合わせした所、①については序盤の回想シーンを膨らませること、②については設定についての説明シーンを入れることと消失のきっかけを印象付けることで分かりやすくしようということになりました。

どちらも修正というよりは追加する方向で進みます。元々30pちょいくらいのボリュームだったので、その辺は楽々クリア。本来、なるべく短いページ数のものが好きな僕は、このとき「①→+4」「②→+2」くらいのイメージでした。それが後にあんなことになるとは…(弱伏線)

相変わらずネームの絵が酷い

こちらが元々のネーム。喧嘩のシーンは無く、谷崎の動画を見るところから始まっています。二人の再会シーンのカタルシスを強めるためには実際に出ていったシーンを序盤に描いておくことが必要だと考え、追加。後に更に二人の関係性を印象付けるため、コミカルな普段の二人の会話を追加することに。

これは個人的な感覚ですが、コミカルなシーンは直接的に物語に関係が無いので不要だと捉えています。例えば映画でも、アクションシーンが苦手です。その間は話が進まないのでイライラしてきます。横の席のポップコーンとかバラ撒いてしまいます。

なので物語に絡めるために「マヨネーズ」を用いました。何故マヨネーズを選択したかなどはこの記事の最後の方で小ネタ解説を入れておきます。

逆に、どんなに地味なシーンでも意味があれば必要だと思っています。僕は普段から面白いと言われているものに全く興味が無いです。面白さは自分で見出だせればいいと思うので。

ここの二人のシーンを膨らませることで、自分も予想していなかったテーマが見えてきました。この瞬間が自分的には楽しい時間です。それは「自己はどうやって確立されるか」です。これは前作の「kaiko」で消化されなかった自分の中の問いで「kaiko」では「偽物の自分も本物の自分もどちらも自分自身だと認めてあげることで少しだけ前に進む」という帰結をしましたが「じゃあ他人と関わる意味ってなんなんだろう」という疑問が残りました。この部分を物語の主軸にすることで、量子力学と恋人が繋がり、全体が成立するのではないか、という「いけそう感」を手に入れたのです。宇宙宇宙。

名前あーちゃんにしてたんだてきとーすぎ

「他人がいることで知らない自分に出会う」という感覚は昔から自分の中にありました。すげえ腑に落ちる。ただそれを具体的にどういうセリフにするかのいいアイデアがなかったのですが、大大大大大先輩の南賀なん御中がいいヒントをくれました。「時をかける少女」の千昭のセリフです。

「川が地面を流れてるのを初めて見た。自転車に初めて乗った。空がこんなに広いことを初めて知った。何より、こんなに人がたくさんいるところを初めて見た」

時をかける少女 / 細田 守

良すぎるだろ。そしてアドバイス的確すぎるだろ。なにより汲み取る力がエグすぎるだろ。パイセンありがとう。本当にあんたのことを羨望しているのはおれだよ。激走劇尖り漫画「アンチヒーロー」みんなも読んで。

アンチヒーロー / 南賀なん

そして上記11pのセリフが生まれました。スーパーモラトリアム谷崎から彼女大好きポケモン(知識欲タイプ)というアイデンティティを会得したのは紛れもなく「他人」がいたからで、それは、自分としてはかなり納得感があります。

そんなこんなで問題①は解決。らくしょーらくしょー。

問題は②です。こいつ厄介すぎ。厄年すぎ。これをどうやって量子力学と絡めるの?無理ゲーすぎない?序盤でダースドラゴンと戦わされてない?

量子の部分をメインに置いてしまうとネームが通らない(というか成立しない)だろう、というのは最初から思っていたので、カップルの話を軸にし、横に量子力学を添えることにしました。そもそも量子力学とはなんぞや?スピってんの?という方もいると思うので簡単に説明します。

現代物理学の根幹をなす分野です。古典物理学ではニュートン力学よろしく、巨視的なものを取り扱っていましたが、現代物理学では極めて微視的なもの「量子」を取り扱っています。原子やら分子やら、学生時代の嫌な記憶も思い出す方も多いとは思いますが、作中でも主人公が言及したように、わたしたちも超超超拡大すればひとつひとつの「素粒子」で構成されています。そのレベルで様々なことを研究されている学問です。

そもそもそんな難しいこと入れなくてよくない?うん。分かる。漫画は「分かりやすさ」が基本、というのはみんな言うとは思いますが、前述したように、面白くなくていいと僕は思っています。それよりも、知らないこと(つまり自分にとって新しいこと)に興味を惹かれ、そこに面白さを見出します。知識欲を超刺激されるノーラン映画とか最高です。気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、終盤の本棚の世界は「インターステラー」からパクりました。パクりです。パクり。あと画作りとして意識してたのは「仮面ライダーW」のフィリップの「地球の本棚」です。

とはいえ難解な設定をペラペラ語るだけなら専門書でいいと思うので、ここはなるべく縮めようと思いました。主人公が友人と通話しながら色々喋ってくれますが、正直ダルい人は飛ばしてもらっても問題ありません。完全に自分が好きだから入れました。

18pに関してはもう絵が無い

この辺の解説は軽くにしておきます。気になる方は調べてください。僕も正確なあれとかあれは分かってません。物理学者に怒られちゃう。

まず、谷崎が消えた原因は「量子トンネル効果」です。これは実際にあるやつで、1973年に日本人の江崎玲於奈さんが実験で成功させ、ノーベル物理学賞を受賞しています。作中の谷崎の名前も谷崎玲於奈という名前で、たぶんどこかに描いたと思います。たぶん。

じゃあ人体でそんなこと起こるの?という疑問のボールを僕に時速180kmで投げたいと思いますが、起きる確率はあるけれど、実質的には起きない、が答えです。例えばスマホの中の電子はたまに障壁を越えますが、そんな小さな素粒子が死ぬほど集まった人体で「同時に」量子トンネル効果が起きるなんて、宇宙を何回繰り返しても起きないでしょう。人体には60兆個の細胞があって、ひとつの細胞に原子が1000兆個あって、ひとつの原子には数十〜数百の素粒子があります。計算してどうぞ。

ちなみに作中で主人公の計算した式が出てきますが、これは僕が実際に書いてみたやつです。実際の原稿には上に大量の0が並んでいますので、それを外した元素材を置いておきます。

こわい式

Tの数値が人間が壁をすり抜ける確率です。各前提条件も書いておきます。

• 質量 m = 50kg
• 障壁の高さ V = 10eV = 10×1.602×10^(-19)J
• 粒子のエネルギー E = 0J(静止していると仮定)
• 障壁の厚さ L = 0.1m
• 換算プランク定数 ħ

きもいね。ごめんね。

このあと主人公のセリフ「起こりうることは起こりうる。それが現実。」は「TENET」からの引用です。

「What's Happened Happened. 〜 Reality.」

TENET / クリストファー・ノーラン

ここの会話シーンが好きすぎるので全文載せさせてください。

ニール「起こったことは仕方がない。これが世界の仕組みなんだと信じてる。何もしなくていいという言い訳にはならない。」
主人公「運命か?」
ニール「好きに呼べ。」
主人公「お前は何と呼ぶ?」
ニール「「現実」かな。さて、行かせてくれ。」

TENET / クリストファー・ノーラン

超パクりしました。最高!

さて、これで①と②の問題を解決することができました。ここでやっとネームが通るかと思ったその瞬間…(弱伏線回収)


②ネーム(4月〜5月頃)

3月は色々ありましてあまり作業ができずでした!

ネームのokは出たのですが、編集部の方からここのシーン良いから増やそう!やら、ここ見開きでドーンと見せよう!やらのご注文がありまして、ページ数が増えることになったのです。ぎゃァ〜!

結局、最終的に48pになりました!わ〜!二度と描きたくねえ〜!

ネーム全文掲載しておきます。絵ヤバくてごめ!

初稿の仮題は「バックルーム」だったよ
涙の演出わざとらしくて嫌だったから無くした
ここの見開き追加しろゆあれた
言うほど石像ババアか?
見開きのカメラワークすこ
なんでそこだけちゃんと描きたいんだよ
47pと48pを同じセリフで場面転換繋げてるのよくない?


④背景準備(6月頃)

今回は3DCGでニューススタジオ、本棚の空間、扉、石像を制作しています。作業はPocketさんにも手伝ってもらいました。

ここがかなり時間のかかる部分で、作画にかけられる時間がどんどん減少していく焦燥と憤懣で脳が壊れていきます。精神の安定した状態で突入しなければいけないので、普段から練は怠っていません。

ニューススタジオ
本棚空間①
本棚空間②

魚眼パースの撮影をするために、UE5でブループリントを組みました。プログラム自体は1日で終わったのですが、難しさに疲労困憊です。やだやだ。

また、本棚に使用している各本のテクスチャ素材はこちらです。

元ネタ分かる人はおれと好みが近いぜ

これをもう1パターンと+αで表紙&裏表紙を用意しました。


⑤作画(7〜8月頃)

以下、原稿完成までの流れです。

①原稿準備

地味に面倒なコマ割りと吹き出しとセリフ入れ

②キャラ作画&背景配置

部屋にある本棚と一番下のコマは3DCGです

③背景処理

ここ楽

④背景作画

結局めちゃくちゃ描き込み

⑤最終処理

これで完成

今回もグレーを塗る前に塗り分け作業で後の作業を楽にしています。前回に引き続き同級生Pさんにも手伝ってもらいました。

今回はページ数多くて大変やたけど、めちゃお金払うから許してぇ〜。

あと、前作に引き続き、Pocketさん登場してるよ〜。

こわい服


⑤完成(9月7日)

最終調整をし、お昼頃に担当さんにデータを送信しました。大焦り&大憤怒で作業していたので、小さなミスがちょこちょこあります。探さないでね。

今年はあと2本、発表されると思いますので、よろしくお願いします。描くぜぇ〜。

データの管理って大変だよね

もっと上手くなりてえ〜。


小ネタ解説

①男の名前「谷崎玲於奈」はノーベル物理学賞受賞者・江崎玲於奈さん&前々作「ヒーロー」の主人公・谷崎と兄弟
②冒頭見開きのナレーション、VTuberの「怪子ちゃん」は前作「kaiko」の主人公がやっているVTuber
③マヨネーズのおつかいのくだりは「仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド」の主人公・乾巧の行動
④主人公・ふーちゃんから谷崎が貰った本は村上春樹「海辺のカフカ」
⑤本棚の本はすべて元ネタあり&漫画家・南賀なんの作品
⑥谷崎が動画でやっていた「ヒーロー着地」は「攻殻機動隊」の草薙素子
⑦「闇落ちどこでもドア」は今作全体のモチーフにもなっているどこでもドアの都市伝説から
⑧「よっこいしょういち」は旧日本兵・横井庄一と「よっこいしょ」を掛け合わせた昭和のギャグ
⑧谷崎が消えるシーンのセリフ「一子相伝の暗殺拳、北斗神拳の真髄を」は「北斗の拳」から(実際にある作中のセリフの組み合わせ)
⑨主人公の親友・荒川イハは今泉力哉監督の「街の上で」の登場人物・荒川青と城定イハから
⑩主人公のセリフ「起こりうることは起こりうる。それが現実。」はクリストファー・ノーラン監督の「TENET」のニールのセリフ
⑪英語の翻訳は「…観測が完了しました。今回の観測者はあなた(彼女)です。」で「あなた」の方は読者
⑫本棚の世界は「仮面ライダーW」のフィリップの本棚の世界&「インターステラー」
⑬プリンセス天功は昭和に活躍した消えるイルージョンをするマジシャン
⑭石像の文字化けセリフは「こんにちは」
⑮作品全体のテーマでもある「再構築された自分は元の自分と同一か?」という問いは「テセウスの船」という思考実験
⑯タイトル「分解と再構築」は「こんにちは谷田さん(現・キタニタツヤ)」の楽曲「身体の分解と再構築、または神話の円環性について」から


あとがき

「漫画を描く」という作業に段々と慣れてきて、画作りの段階で「こんな機能使ってみてえ!」みたいな挑戦が容易になってきました。作業的には本当にキツかったですが、そういう精神面での気楽さが生まれてきたのは良かったな〜と思っています。

今作を作るにあたって協力してくれた、Pocketさん、同級生Sさん、部屋や衣装を提供してくださったMさん、Aさん、難解で人を選ぶネームにしっかりと向き合ってくださった担当さん、名前の使用に快諾してくださった南賀なんさん、長時間ネームに付き合ってくださったながんさん、そして、普通の漫画に飽きた狂人の読者の皆様。心より、もっとおれと付き合ってくれ、と思います。

ビッコミの最後のページにあるこちら、少しでもぶっ刺さった方はよろしくお願いいたします!

ファンレターよこせ

今作「分解と再構築」とnote「分解と再構築-メイキング」を読んでいただいた方、ありがとうございました!

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分解と再構築_ビッコミ

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