母の認知症 歯のこと

 時系列はバラバラですが、認知症のはじまりの頃のこと。
 仕事から帰って夕飯の支度をしようとしたとき
「歯がグラグラで噛めへんからうどんにしてくれん?」
「グラグラんが抜けるまでやから」
 どうやら母は虫歯にでもなったんだな。認知症で自分で歯医者に行けなくなって、というか歯医者に行くことを失念してしまったよう。
 いつ抜けるかも分からない状態で放っておけるわけでもなく、なるべく早く診てもらえそうな歯医者さんに予約し診察を受けることに。
 そこで愕然としたのは奥歯が欠けていたり、グラグラだったりが数本。
 母はこんなになるまで放っておいてしまったのか。
 私はこんなになるまで気づいてあげられなかったのか。
親の歯の状態なんて気にする時がくるなんて思ってもみなかった‥
 グラグラな歯は抜歯し、入れ歯を作ることになった。
 型を取るのも苦戦したけれど、実際に入れ歯をいれるときに非常に難儀していた。
何度も歯医者に通い、ようやく出来た入れ歯も嫌がりはめず、悔しくて悔しくて
「もうはめへんなら捨てるで!」
結局家での介護中は一度も入れ歯を入れることはなかった。
 
 せっかく作った入れ歯をはめなかった母へのいらだちは
自分の時間を割いて何度も何度も歯医者に連れて行ったのにという自分の時間を割かれた苛立ちだった。
ひどい娘だ。
 家庭での認知症の介護は現実を受け入れる悲しみと誰にもわかってもらえない孤独の闇で進む方向を失ってしまう心細さのようだった。

#認知症
#親の介護
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