最初の10年の仕事の仕方③
『最初の10年の仕事の仕方』シリーズ『①』『②』が更に大きな反響がありましたので、引き続き続編記事をお送りしたいと思います。
前回までの記事はこちら(↑)からご確認いただくとして。今回も“最初の10年”にスポットを当てて記事をお送りしていこうと思います。
2001年当時のサイバーコネクトツーは全社をあげてプレイステーション2専用ゲームソフト=オリジナルRPG『.hack』全4巻の開発を行っていました。
開発に着手したのは1999年秋、それから研究開発・シナリオ・バトルシステム・エリア自動生成システム・モンスターデザイン・ボスデザイン・モデリング・アニメーション・シネマティック・BGM・調整・デバッグと全ての工程を終えて(バンダイより)発売される2002年まで、およそ3年半ほどの年月を要しました。
開発スタッフは社員18名+アルバイト7名の計25名。
決して多くない人数での開発でした。しかしながら当時のバンダイと協力してゲームソフトのみならずTVアニメ『.hack//SIGN』、漫画『.hack//黄昏の腕輪伝説』、そして小説作品やラジオ番組などいわゆるクロスメディアによる同時多発展開を行ったことで大ヒットとなりました。
サイバーコネクト時代に『テイルコンチェルト』や『サイレントボマー』で果たせなかったこと(大ヒット)が実現できたことは本当に嬉しかったです。
ただ一方で不安もありました。
“また3年半かけてゲームソフト開発をやるのか?”
あ、やるんですよ?やることになるんです。
結局このあとやっぱり3年半かけてオリジナルRPG『.hack//G.U.』全3巻を作ることになるのです。
そこはそうなんですが、やっぱり3年半という年月は(当時から考えても)長すぎる、というか“小学6年生が中学を卒業して高校生になってしまう年月”なんですよ、3年半って。
オリジナルRPGはキャラ・シナリオ・世界観全てをゼロから立ち上げる必要があるのでどうしても時間がかかってしまうのです。そこはもうしょうがない、かかるものはかかるのです。
そこで考えました。
“もう1ライン増やそう。でないと効率が悪い上にせっかく(ウチの作るタイトルのことを)好きになってくれたファンが離れていってしまう”
“ウチのスタッフはみんなアクションゲームが大好きだからもう1つのラインはアクションゲームを作るチームにしよう”
“開発期間はざっと1年くらい”
“俺が一番得意なことをやろう、そうすれば悩まない。なにしろ開発期間1年でアクションゲームを作るとなると悩んでなんかいられない”
“そうなると、答えは1個しかないな”
こうしてサイバーコネクトツーは初の版権タイトルとして『NARUTO-ナルト-』のゲームソフトを作ることに決めたのでした。(勝手に)
実は1999年に少年ジャンプで『NARUTO-ナルト-』の連載が始まった瞬間から決めていたのでした。(勝手に)
“あ、この作品はウチでゲーム化しよう”
『.hack』の開発が終盤に差し掛かった2001年に先行して『NARUTO-ナルト-』のプロトタイプを作り始めました。(勝手に)
プレイステーション2の実機で動く(ナルトとサスケが操作できる)1VS1の対戦アクションゲームを作って、社内でアフレコオーディションやって音声収録も勝手にやりました。
“とりあえず、バンダイにでも持って行って見せるか”
そう考えて『.hack』の打ち合わせのついでにバンダイにプロトタイプ『NARUTO-ナルト-』のROMを持って行きました。
『.hack』の打ち合わせを予定通り行った後に、バンダイの担当におもむろに取り出したROMを使ってプロトタイプ『NARUTO-ナルト-』の簡単なプレゼンを行いました。
“とまぁ、こんな感じのゲームにするつもりなんで(よろしく)”
と、言い切る前にバンダイの担当の空気がちょっと変わっていることに気づきました。(もし効果音をつけるとしたら間違いなく“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ”って鳴ってましたね)
(後にも先にも人からあんな勢いで怒られたのは無いんじゃないかなぁ)
あー、はい、(当然ですが)滅茶苦茶怒られました。
もうね、そこまで言う?ってゆーくらい怒ってましたね。こっちは何にも知らなかっただけなのに。(だから怒られたんだ)
*****
めちゃくちゃ怒られました
バンダイ担当「何してんの!?やめて!?バカなの!?なんてことしてくれてんですか!?かっ……かっ!勝手に作っちゃダメだから!?ホント頼むよヤメテ、ねぇ?なんなの?なんでこんなことすんの?集英社にバレたらどんなことになるかわかってる!?いや、わかってないよね!?だからこんなバカなことしたんだよね!?いい?あのね?版権タイトルのゲームを(プロトタイプとはいえ)勝手に作っちゃ駄目だから!著作権をなんだと思ってんの?つか何勝手に声とかまで入れてんだよ!?誰だよこの声!?え?オマエかよ!?ヘタくそだなオイ!いやそこじゃない!それもダメなんだって!勝手に声とか入れるなよ!?頼むよこれ以上面倒ごとを起こさないでよ?しかも勝手に作って持って来ておいてなんでサイバーコネクトツーが開発担当する前提で話進めようとしてんの?何様なんだよ?わかってる?『NARUTO-ナルト-』だよ?仮にバンダイが権利(ゲーム化権)を取得できたとしても!絶対コンペになるからね?こーゆーの“先に企画書出したのウチなんで”とか関係無いから!それだけデカい案件なんだよ『NARUTO-ナルト-』は!!!だからバンダイだって超慎重に!うう……他事業部とも連携しながら集英社にアニメ化の提案を……う、うう、もう、バカ、死ね、死んでくれ、もうヤダお前……」
(めっちゃ怒ってるなぁ)
松山「けどそっか、コンペか、そりゃまそーですよね、『NARUTO-ナルト-』ですもんね。イイすよ、全然、コンペでも。どうせウチが勝つんで。やりましょう、コンペ、って何社くらいでやる感じスか?まぁいいか、何社でも、どうせウチで作ることになるし」
バンダイ担当「いや、なんで勝つこと前提なんだよ!?つかその前に反省してる!?ねぇちょっと!コンペの話の前にまず反省して!そして二度とこんなことしないって約束して!?誓って!?でないとボクが先にクビになって会社からいなくなっちゃうよ!?ねぇ!いいの?『NARUTO-ナルト-』作りたいんでしょ!?頼むから言う事聞いて!お願い!」
松山「あー、はい、ウス(『NARUTO-ナルト-』作りたいんで)言う事聞きます。スンマセンデシタモウシマセン」
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こうして――動き出した運命の歯車はやがて大車輪となって15年以上の付き合いとなる『ナルティメット』シリーズの記念すべき1作目、『NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー』へと繋がっていくのでした。
え?急になにカッコよくまとめてんだって?いや、ちゃんと反省しましたよ?あんだけ怒られましたからね。
あのあとバンダイの担当がホワイトボードを持ち出して図解しながら著作権の仕組みや、少年ジャンプ作品における版権の流れ・原作版権とアニメ版権の違いや製作委員会の仕組みなどを懇切丁寧にレクチャーしてくれました。
めっちゃ勉強になりましたよ、だって知らなかったんだもん。(てへ)
あ、そうそうもちろんその後のコンペは10社くらいのゲーム開発会社で実施されたんですけど(当然ながら)ウチが勝ったので『NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー』を作ることになったわけです。
が、それはまた別のお話。
この辺の『NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー』誕生の流れや制作秘話などはこちらの書籍にもわかりやすくまとめられていますので良かったら読んでみてください。
さて、ここからの後半戦はこれまでの記事『最初の10年の仕事の仕方①&②』の有料部分の続きとなります。
【版権タイトルにおける制約の話】をお届けしようと思います。せっかく『NARUTO-ナルト-』の話になったので版権タイトルを制作する時に我々が学んだいくつかの独特の制約とその攻略・対処法を紹介します。
それではハリきっていきましょう!
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最初の10年の仕事の仕方③
じゃあオマエはいつ勝つんだ?
制約の攻略法
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