マガジンのカバー画像

【薄い本】

13
エロ同人とかはよく俗に『薄い本』と言われます。 そして、僕の小説は文章の厚さが『薄い』です。 つまりは、ちょっとえっちな小説書いてます。と言ってもやっぱりえっちじゃないものの方が…
運営しているクリエイター

#note

【薄い本】クロノスタシス

【薄い本】クロノスタシス

『帰るの?』

ブラのホックを止めている途中のハルカが訪ねる。

『明日も仕事だしね。とっても名残惜しいけど帰るよ。』

そう言って彼女の額にキスをする。

『嘘ばっかり。』

『嘘じゃないよ。じゃあ、行くから。風邪ひかないように早く服着なよ。というかパンツ先履きなよ。』

『ユウキが脱がせたあとどっかに投げたんじゃん。いっつも投げるんだから、もう。』

四つん這いで下着を探すハルカを尻目に、じゃ

もっとみる
【薄い本】タイムカプセル

【薄い本】タイムカプセル

------------

『10年後のぼくへ
ぼくは今、11才です。10年後のぼくに質問です。
今、何をしていますか?ちゃんとプロのサッカー選手になっていますか?小野といな本といっしょにグラウンドに立っていますか?
まあ仮にだめだったとしても、サラリーマンになって会社につとめていることでしょう。
たぶんしょうやとずっと遊んでいると思うけど、20才を越えているなら、2人でお酒とか飲んでいますか?

もっとみる
【薄い本】バレンタインイベント

【薄い本】バレンタインイベント

ふたりでぺろりとスパゲッティを平らげる。
冷蔵庫に残っていた辛子明太子を使った、たらこクリームスパゲッティ。こいつ、ひょっとしてあたしより料理のスキル高いんじゃないか。ちょっぴり悔しさを覚えながら食器をキッチンへ運んだ。

料理を作ってもらった分、洗い物はあたしの仕事。ササっと済ませ、冷蔵庫からチョコレートを取り出す。彼はというと、こたつに入って携帯のゲームをしている。彼の目の前に、どんっとチョコ

もっとみる
【薄い本】映画館

【薄い本】映画館

チチチチチチチ………

古いタイプの映写機が、これまた古いフィルムを一生懸命回している。体験したことのない昔へタイムスリップした気分だ。

僕が座った席に、ふっとポップコーンとジュースが現れた。僕の周りには誰もいない。今この映画を見ているのは僕だけだ。

・・・

気がつくと、とある映画館の前に立っていた。辺りには他に何もない。どこかの裏路地のようだが、はっきりとした場所はわからない。

『---

もっとみる
続・追いかけあう手

続・追いかけあう手

あれから4ヶ月。
身を斬るような風と共に、街の雪はどこかへ消えた。空は青く澄み渡り、春の陽気が身体を包む。
日用品の買い出しを済ませ、午後からの約束に間に合うように足早に道を歩いていた。
そこで、ふと目に止まった一件の店。

正確には、店の中の一枚の絵。

あの絵だ。あの雪の日、フリーマーケットで見かけた二本の手。あの絵は売らないって言ってた。てことは。

・・・

開いたドアのベルが、カランコロ

もっとみる
追いかけあう手

追いかけあう手

この記事はnoハン会2nd小冊子企画に寄稿したものです。

ふーっと息を吹きかけ、手をこすり合わせる。
しばらく歩いていると、はらはらと雪が降ってきた。今年は例年より少し早い降雪。
折りたたんでいた傘をさし、コートのボタンをキュッと閉める。
バーか何かの曲がりくねったストローのようなネオンにはまだ明りはなく、CLOSEDの看板が傾いている。店の前の交差点で、赤いライトを無心で見つめる。

そんな、

もっとみる
【#同じテーマで小説を書こう】Das Spiegelzimmer

【#同じテーマで小説を書こう】Das Spiegelzimmer

Das Spiegelzimmer(ダス・シュピーゲルツィマー)
『鏡の部屋』

・・・

目が覚めると、鏡の部屋にいた。
前後左右、天井も床も全て鏡。
右を向くと、俺と目が合う。ずっと遠くまで、向かい合う俺と俺が無限に続いている。見渡す限り俺がいる。俺が腕をあげると、俺が一斉に手をあげる。
素足でひたひたと、目の前の鏡に歩きだす。鏡越しにそっと自分に触れる。冷たい。ずっと右向きに横たわっていたの

もっとみる