映画パンフレット感想#32 『ユニコーン・ウォーズ』
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感想
鑑賞中、前半部こそ「見た目がキュートなテディベアたちが悪意を顕にしたり酷い目にあったりするギャップの面白さ」が前面に押し出され、面白がりながらもその悪趣味さにこのまま終始するのではと不安があった。しかし中盤から事態が悪化し、凄惨な様相を呈し、主人公兄弟のアスリンとゴルディの内面や関係性により強く焦点が当てられると、急速に面白くなった。映画はそのままあの見事なエンディングまでノンストップで突き進み、エンドロールが終わる頃には満足感に包まれていた。席を立ち上がってすぐ、パンフレットを求め売店へと向かったのだった。
また、ただ面白かったからというだけでなく、本作は複数の映画作品(主に戦争映画)を引用したり、寓話であり現実世界の出来事や人物をモチーフにしたりしているようにも見えたので、そのヒントや答えとなる情報を求める目的もあった。実際、アルベルト・バスケス監督へのインタビュー記事や、いくつかの寄稿記事で期待したとおりの情報が得られた。なお、私はあまり関心がなかったが、キャラクターデザインやラフ絵、コンセプトアートなどの資料も充実しており、アニメーション制作のクリエイティブな面に関心のある方にとっては貴重な資料集になるのではないだろうか。
寄稿記事では、「ペニスから始まる『男らしさ』神話の崩壊」と題されたISO氏の批評を特に興味深く読んだ。私は本作を観ながら、一人の過激な指導者が誕生し、戦争が暴走していく過程が、やけに丁寧に描かれているように感じていた。コンプレックスを抱えた本来凡庸なアスリンが、軍部から英雄的存在に祭り上げられ、凡庸な兵士の心を掴み支持を集めた結果、仮初のカリスマが真のカリスマへと変貌していく。そして、軍部が「戦争を続ければ我々の地位を維持できる」と、さして本気で取り組んでいなかったはずの戦争が、カリスマによるクーデターによって軍の転覆が起き、「ユニコーンを殲滅すべし」という過激な思想が本格化したことで暴走する。この一連の流れに、アドルフ・ヒトラーを想起したし、戦争が燃え広がる現実性を感じ得た。
そうこう思考しているうちに解像度の高い「戦争」のことばかりが頭に残り、劇中でたびたび描かれた「有害な男らしさ」については後景へと押しやってしまっていた。それゆえ、ISO氏の寄稿ではそれらを一つ一つ拾った上で丁寧に解説されていて、重要なもう一つのテーマについて改めて考えるきっかけとなったのだった。また、劇中で何度も歌われる「いいユニコーンは死んだユニコーン」というフレーズを、現実に存在するある文言と紐づける解説は、このパンフレットを読まねば一生知らずにいたと思う。改めて感謝したい。
他にも様々学びになる情報があったが、読み終わったいま最も肝に銘じたいのは「わたしよ、『バンビ』を観よ」ということ。本作を観て、『もののけ姫』の引用だと思っていたものは恐らくすべて『バンビ』の引用なのだと思う。かくして、また新たに観たい映画が増えてしまった。