映画パンフレット感想#23 『異人たち』
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感想
年間ベスト級の映画だったため購入した。サーチライト・ピクチャーズ配給作品(米にて)なので、みんな大好きサーチライト・ピクチャーズブランド共通フォーマットのパンフレット。デザイン、充実した記事、ボリューム、どれも高水準のシリーズだが、本作のパンフも期待に違わず一定の満足感が得られるものだった。
私が本作を見事だと感じたことのひとつが、性的多様性(主にゲイ)について社会における理解が変化/深化した過程がシーンや台詞に巧みに盛り込まれていることだった。パンフにはライターの木津毅氏が「会話から紐解く、LGBTQ+を巡る価値観の違い」と題して、各シーンを解説した記事が掲載されており、一部理解が追いつかなかった点について補完することができた。またこれとは別にもう一つ木津氏の寄稿が掲載されているが、こちらもアンドリュー・ヘイ監督の過去作を挙げながら主に同性愛をテーマに本作を解説しており、新たな発見が得られた。
木津氏の寄稿でも言及されていたが、アンドリュー・ヘイ監督やキャストのインタビューで、本作のストーリーが「自伝ではないものの監督の私的なことが色濃く反映されたもの」だと語られている。もともと日本人作家の原作に基づく作品だと事前知識を得て観ていたし、ファンタジー性の強いその性質からも、そこまで私的な要素が含まれる映画であるとは思いもよらなかった。また、他にも「当事者性」にまつわる興味深いエピソードがプロダクションノートで明かされていて、こちらも作品をより楽しめるポイントとなった。
その他、作品の内容に密接にかかわる劇中曲の解説や、一部歌詞の抜粋掲載などもたいへんありがたかったが、本書でもっとも面白いと感じた試みは、原作「異人たちの夏」とその原作者・山田太一の深い掘り下げだ。山田太一の長男・石坂拓郎氏と次女・長谷川佐江子氏へのインタビューや、1988年公開の大林宣彦監督『異人たちの夏』に出演した秋吉久美子氏と片岡鶴太郎氏へのインタビューなど、予想外ともいえる記事が並んでいる。これらから、山田太一の人柄や、「異人たちの夏」が書かれた背景や経緯、大林版とヘイ版の差異などを知ることができ、ヘイ版の特徴をさらに理解することができた。
パンフレットを読みながら本作の劇中曲をいくつか聴いていたが、最も重要な曲ともいえるFrankie Goes To Hollywood「The Power of Love」のMV冒頭部におおきな驚きがあったので引用する。