映画パンフレット感想#42 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
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感想
降り積もった雪のじゅうたんを思わせる、手触りが柔らかく滑らかな凹凸のある表紙……と書きながら、ふと“ある映画のパンフレット”を読んだ記憶が手の感触とともに蘇った。
どうやら『ホールドオーバーズ』と『落下の解剖学』のパンフレットは、表紙がどちらも同じ銘柄の紙のようだ。「雪」を演出している点でも共通するし、「雪といったらこの紙」というセオリーが印刷業界やデザイナーのノウハウとして存在するのかもしれない。
『ホールドオーバーズ』のパンフレットでは、この雪の紙にクリスマスツリーが大きく配置されており、本作がクリスマス映画であると宣言するかのようなデザインだ。私は本作を公開日の翌週、6月の最終週に映画館で鑑賞したのだが、夏の到来を告げる蒸し暑い晴天の日だった。劇場の座席に腰を下ろしてからも体の火照りがしばらく収まらず、置いてけぼりたちの孤独を寒さが際立たせるこの冬映画を、なぜか滝のように流れる汗を拭いながら味わったのだった。本書の表紙はその時に抱いた不思議な季節外れ感を思い起こさせてくれた。「そうだ、私はあんな蒸し暑い夏の日に上質なクリスマス映画をみたのだ」と。
さて、本作がもつ特徴のひとつは「1970年頃の映画の空気を再現した映画である」ことだが、パンフレットではインタビューやプロダクションノートでそのルーツや表現手法が明かされている。映像のルック、音響の工夫、参考にした当時の映画作品など情報は多岐にわたり興味深い内容だった。また、ストーリーやキャラクターは脚本を手がけたデヴィッド・ヘミングソンの私的な体験に基づくようで、その元となったエピソードもプロダクションノートで触れられている。
そのほかの記事は、冒頭で引用した公式による紹介ポストにあるとおり。中でも「使用楽曲リスト」「キーワード(劇中に登場する固有名詞等の解説)」は資料としてありがたい記事だった。前者は、本作を彩る多数の楽曲を改めて知ることができるし、後者は、劇中でさらっと触れられる程度の固有名詞を拾える。古代史の教師ポール・ハナムとその生徒アンガス・タリーの間で交わされる言葉の中には、教養がなければ咄嗟に把握できないものや、そもそも理解できないものもあり、学びとなった。
印象に残ったのは映画評論家の川口敦子氏の寄稿だ。アンガス・タリーを演じたドミニク・セッサの魅力がひたすらに綴られている。ひとりの俳優に焦点を当ていちファンのように高揚した様子でその魅力を紹介する記事は、映画のパンフレットの寄稿では珍しいように思うし、スター俳優で賑わっていた時代の映画雑誌を読むようでどこか懐かしさを覚えたのだった。これもまた「過去を学び今を知る」なのかもしれない。