映画パンフレット感想#35 『チャレンジャーズ』
公式サイト
感想
とにかく強烈で痛快なラストを迎えるこの映画。何年後かに「エンディングが印象的な映画は?」と問われたとき真っ先に思い浮かべそうなほどだ。また、そこに至るまでの主要人物3人の関係性の変化も常にスリリングで、純粋に「面白くて楽しい作品」である。というか、私が本作に対して持った感想の大部分は「面白くて楽しい」だった。
ただ一方で、意味深長な謎かけのようなポイントもあるように思った。例えば、タシの本心や欲望はどこに向けられているか。また、劇中で「テニス=リレーションシップ(関係性)」とも語られるものの、ルカ・グァダニーノ監督がテニスに持たせた本当の意味はなんなのか。そういった点をより突き詰めたいと思い、パンフレットを購入した。
実は前述の「面白くて楽しい」という私の感想について、やや軽薄すぎやしないかと我ながら不安を覚えていたが、ルカ・グァダニーノ監督へのインタビュー記事と、プロダクションノート記事に抜粋された編集を手がけたマルコ・コスタの談を読み、安堵した。グァダニーノがまさにそこを目指して本作を製作したと読み取ることができたからだ。特にコスタのコメントには、私の感想と一字一句同じ言葉が登場する(英語の翻訳ではあるが)。また、グァダニーノのコメントには、製作で目指したものを示すワードとして“芸術”の文字もあった。
それを補強するのが、ライター/編集者の門間雄介氏が寄稿した「まったく新しい表現に挑戦する、グァダニーノとコラボレーターたちの『関係性』」というレビューだ。この記事では、グァダニーノがこれまでの映画製作において、音楽・ダンス・衣装など、時に映画の分野を越えその道の一線のアーティストとコラボレートしてきたことや、さらに本作ではそのコラボレーターたちに新たな挑戦をさせたことなどが解説されている。先に紹介したグァダニーノの言葉と総合すれば、各セクションの“芸術家”と新たな芸術を創造したのが映画『チャレンジャーズ』ともいえそうだ。
ちなみに、パンフレットには音楽を手がけたトレント・レズナー&アッティカス・ロスへのインタビュー記事、衣装を手がけたジョナサン・アンダーソンへのインタビュー記事も掲載されており、“コラボレーター”へスポットライトを当てていて抜け目がない。どちらの記事も面白いが、特にアンダーソンへのインタビューでは、衣装を考案する上で分析した各キャラクターの性格が細かく説明されたり、本作に登場する“衣装のブランド”が最終的に持った意味が語られたり、作品に対する新たな発見をもたらす内容となっている。
上記に紹介した記事や、その他パンフレットを読んでいて、ふと頭をよぎることがあった。グァダニーノは『チャレンジャーズ』のプロジェクトで、各コラボレーターに革新的なアイデアを持ちかけながらこれまでになかった挑戦をさせ(俗な言い方をすれば無茶振り)、互いにコミュニケーションをとりつつブラッシュアップし、最終的に新たな芸術としての映画作品を完成させた。グァダニーノも各アーティストが生み出した音楽や衣装などさまざまな作品に驚き、興奮したことだろう。これは、本作でタシが導き実現させたことと完全に重なりはしないだろうか。と考えれば、グァダニーノにとって、「映画=リレーションシップ(関係性)」なのかもしれない。
ここで、パンフレットに掲載された、映画批評家の児玉美月氏による寄稿に注目したい。映画パンフレットの寄稿記事ではお馴染みの児玉氏の文章は今回もたいへん読み応えがあり、膨大な知識をいかして過去の名作を参照しつつ本作を映像等から読み解いた解説など楽しみながら読んだ。なかでも、私が思わず目を見開いてしまったのが、「出逢いがどちらか片方のみであったなら、タシはそもそも彼らと関わっていただろうか」という指摘である。盲点であったが確かにそのとおりだ。
これを頭に入れたうえで、ルカ・グァダニーノ監督のインタビュー記事の冒頭部、「この映画を作りたくなった理由」を読むと、大きな理由としてある2人の名前が挙げられていることに気づく。グァダニーノは、この2人のどちらかが欠けていたら、本作を撮ることはなかったのかもしれない。
最後に補足のような触れ方になってしまうが、音楽/映画評論家の村尾泰郎氏の寄稿では、主に音楽面について解説されている。音楽や外国語に疎い私には、挿入歌が意味するところがわからないので、そのあたりの解説は非常にありがたかった。