映画パンフレット感想#27 『ピクニック at ハンギング・ロック 4Kレストア版』
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感想
税込770円と、近頃のパンフレットにしては比較的安い価格設定。表紙こそツヤだしの表面加工が施されているものの、使用紙は一般的なコート紙で、B5サイズの中綴じ製本28ページと、仕様はシンプルだ。また、記事の数も一般的なパンフに比べると1つ2つ少ない印象がある。恐らく、4Kレストア版とはいえ旧作のリバイバル上映で公開規模も小さい作品なので、パンフも相応の予算と仕様で製作されたのだろう。
とはいえ映画のパンフは、テキストと場面写真が適量あり、それが読みやすければそれで十分と私は考えているので、この仕様と価格はありがたかった。また、全編通して甘美な不穏さを湛えるミステリアスな本作について、過度に解説が並べられていてもある意味興醒めしそうでもあるし、必要最低限にしぼって作られたこのパンフは、作品と親和性が高いともいえるかもしれない。
実際、ピーター・ウィアー監督へのインタビューを読んでいると、原作者のジョーン・リンジー自身が作品と同様ミステリアスな人柄で、多くを語りたがらない人物であるとよくわかる。その点でも、説明過多でないことは映画のみならず原作の精神にも準じているとも思える。ちなみにこのインタビュー記事では製作に至った経緯や、撮影、ロケーション、衣装のことなど多くのことが語られているが、最も印象に残ったのがこのジョーン・リンジーにまつわるエピソードだった。
個人的にインタビュー記事を読んでなお気になっているのは、監督が原作のどの点に関心を持ち、またどのようなテーマを託してこの映画を撮ったのか、だ。記事中でも監督が原作に夢中になった様子と簡単な理由に触れられてはいるが、さほど掘り下げられていない。私はピーター・ウィアー監督作品を『いまを生きる』と『トゥルーマン・ショー』の2作のみ鑑賞したことがあったが、本作はそのどちらともと共通点を見出せた。3作ともクレジット上、脚本は監督自身によるものではないが、特に『いまを生きる』とは類似点が多いように見える。「少年/少女」、「寄宿制の学校」、「規則や規律などの束縛と自由」、「自死」など。なぜ監督がこうしたモチーフに関心を持ち、描こうとするのか知りたいと思ったのだった。
最後に、表象文化研究者の関根麻里恵氏の寄稿について触れたい。「『コルセット』を脱ぎ捨て、『完全に満ち足りた世界』から脱走する少女たち」と題されたこの記事では、まさに字の如く、このフィルムのなかの少女たちがいかにして脱走したかに注目し解説されており、導入部、中間部、結論部と論の展開のさせ方が綺麗で思わず唸ってしまった。特に、導入部と結論部の対置とそこから着地する結びの一文にしびれた。必読の記事である。