見出し画像

横浜市立大学(国際教養)/小論文14〜21

【横浜市立大学(国際教養)/小論文2014〜2021】

横浜市立大学の国際教養学部の小論文をまとめて解く機会があったので、解答例を計8年分載せておきます。(1)(2)は50〜200字の内容説明問題、(3)は課題文論旨を踏まえた300字の意見論述となっています。(3)の論の方向性は課題文で示唆されています。ここでは(3)のみを掲載します。
内容的には「グローバリズム/資本主義」「コミュニティ/ダイバーシティ/デモクラシー」についての理解を深めておくことが望ましいでしょう。参考にRED本の解答例も載せましたが、どこが悪いかを指摘する練習に使えます。

【2014】課題文の出典は今井むつみ『ことばの発達の謎を解く』(2013)。

(3) 日常会話やメールなどで、意図した言葉の意味が通じなかったことはありますか。具体例を挙げ、それがなぜ通じなかったのか、300字以内で論じなさい。

〈GV解答例〉
ことばは文脈に依存するので、同じことばでも発信者と受信者で想定する文脈が異なる場合、誤解が生じることになる。特にメールの場合は、対面で会話をする以上に文脈が共有しにくいので誤解の可能性が高まる。以前、受験に失敗した友達にメールで「もう少し頑張ろう」ということばを送った時、友達が返信してくれないことがあった。こちらとしては受験はまだ続くので友達を励ますつもりだったのだが、友達の方はもう十分に頑張っているのにうまくいかなかったのだから余計なお世話に思えたのであろう。このように、発信者が好意を持って伝えたつもりでも相手を傷つける場合もあるので、相手の文脈を慎重に吟味した上でことばを発する責任がある。(300)

〈参考 RED本解答例〉
以前、自分と趣味を同じくする集団がツイッター上で使っていることばを、その集団に属していない友人との会話で使ってしまい、意図した意味で通じなかったことがある。ことばそのものは珍しい語ではないが、集団内で使われたときの意味と、一般的な意味が大きく異なるからだ。ことばが機能するには、ことばと状況がある程度切り離されていなければならない。しかし、ことばの意味が、使われた状況に依存して変わってくるのも事実である。同じ言語圏内でも、狭い範囲の文化的・社会的背景、個別の状況に応じて、ことばの意味は日々変容している。したがって、それらを共有していない人に、特殊な意味をはらむことばがそのまま通じることはない。(299)
※ 具体例が具体性を欠いています。

【2015年】課題文の出典は菅野仁『ジンメル・つながりの哲学』(2003)。

(3)「「身近な他者」についてその「他者性」を忘れているか、あるいは認めようとしない」場合、どのような問題が引き起こされるだろうか。あなたの知っている具体例を挙げて300字以内で論じなさい。

〈GV解答例1〉
日本は同質性の高い国といわれる。それを支えてきたのが協調性を重んじる教育と社会の空気だ。こうした同質性の高さは、以心伝心的なコミュニケーションを可能にし、かつての高度成長を後押しした面もある。だが一方で、それは集団に強い同調圧力をもたらし、「身近な他者」の他者性を忘れさせ、集団内の異質な存在の排除やいじめにつながったという面も否定できない。また、集団の上位者に過剰に忖度する行為規範を生み、集団が停滞や堕落の局面にある場合、その方向転換を困難にする面もあるだろう。グローバル化により規範の流動化が進む現代、「身近な他者」を他者として尊重することがイノベーションを生み出すために欠かせないといえよう。(300)

〈GV解答例2〉
日本と韓国の間にある「嫌韓/反日」問題は、他者性の意識の欠如に由来するものだ。日本にとって韓国は歴史的に最も関係の深い国である。一方、年配の世代の「嫌韓」意識は根強く、若い世代でもスポーツの国際大会で近親憎悪的な敵愾心が噴出することがある。そのとき、韓国はいつまでも過去の歴史にこだわって、不当に日本を貶めているという声が聞かれる。だがそれは、日本の側の現代的な感覚により相手の歴史的な他者性を無視した理屈だといえる。韓国が長く日本の不当な支配下に置かれ、その後民族分断の不幸に見舞われていることを相手の側から理解する姿勢こそが、韓国の「反日」意識を解消し、日本の国益にも寄与するものになると考える。(300)

〈参考 RED本解答例〉
以前、とても仲の良い友人が、彼氏がいることを内緒にしていたと知ったとき、つい「どうして教えてくれなかったのか」と怒ってケンカになってしまった。これは、私が彼女の「他者性」を忘れ、勝手に彼女の全てを理解していると思い込んでいた中で、彼女の恋愛感情や人間関係の広がりを把握できていなかったという現実を直視させられたために起きたことだともいえる。「身近な他者」は身近であるがゆえに、互いの全てを理解しあっていると思いがちだ。たとえ相手の他者性に気づいても、それを排除して「私こそがあなたを理解している」と言い張り、自分と相手との距離を取ることができなければ、相手を抑圧し人間関係の破綻につながると考える。(299)
※ これは「あなたの知っている具体例」というより「あなたの体験した具体例」ですね。


【2016年】課題文の出典は仲正昌樹『「みんな」のバカ!ーー無責任になる構造』(2004)。

(3)「「みんな」のグローバル化」について、あなたはどのように考えるか。肯定的な側面と否定的な側面を挙げながら、300字以内で自由に論じなさい。

〈GV解答例〉
「みんな」のグローバル化とは、資本主義に先導されるグローバル化が世界の潮流になると、日本人の国民性も相まって、国も企業も国民も無批判にそれに乗っかることだと考える。もちろんそれにより世界の経済規模が拡大し生活レベルでも利便性が増し、また地球温暖化など世界的課題への関心が高まるという利点もあるが、地域の特性が弱まるとともに、規制緩和の名の下で国家の分配機能が低下し、富の集中と経済格差が拡大している現状もある。そうした中、ローカル性を保ちながらグローバル社会に投げ出された個々人の経済的・精神的なセーフティ・ネットとなり、かつ国籍や性的嗜好による多様性を包摂するようなコミュニティの再興が望まれよう。(300)

〈参考 RED本解答例〉
「みんな」のグローバル化とは、これまで地理や文化の相違によって隔てられてきた人々が、ともに経済・文化活動を行うために、その手段ややり方を同じだとするという動きが、世界中に拡大していくことである。これは、民族や宗教の相違を理由とした争いが絶えない世界情勢において、既存の枠組みを超えた相互理解の契機となり得るものだ。一方で「みんな」のグローバル化は同化への圧力となり、価値の多様性を否定するという側面も持つ。よって、すべてを強引に画一化するのではなく、グローバルな付き合いにおける不便を解消するという範囲に止め、その過程で浮き彫りになった差異を、どこかで認めて互いに尊重できることが重要になると考える。(300)
※ ただの「グローバル化」の説明になってますね。


【2017年】課題文の出典は森政稔『迷走する民主主義』(2016)。

(3)「こうした実践と知との結合」とあるが、例えばどのような実践や知が考えられるであろうか。あなたが関心を持つ具体的な題材を挙げて、それに関する実践や知について300字以内で述べなさい。

〈GV解答例〉
昨今のコロナ禍の状況は実践と知の結合が求められる格好の例だ。新型コロナとその変異が断続的にもたらす災禍は、人類にとって初めての経験なので予測と対策が立てづらい。加えてウイルスは目に見えず、無症状という形で感染を広げていくという性質がある。その中での自粛の長期化は経済の停滞とコロナ疲れをもたらし、一部にはコロナを軽視した言動や不確かな情報に基づくマスク不要論、ワクチン危険論が広まっている。しかし一方でコロナの世界的流行は、無数の症例データと症状やワクチンについての確度の高い情報を日々蓄積している。そこから発信される知を参照しながら、市民は自らの健康と社会性を保つ行為を選び実践していく必要がある。(300)

〈参考 RED本解答例〉
原発事故が起こった福島の農産物は、米の全袋検査を始め、徹底的な検査によって安全なものしか流通していない。また、放射性物質が含まれていたとしても、わずかの量であれば健康被害は生じないことが科学的に確かであるとされている。しかし、そうした科学の「知」を受け入れられず、「汚染された」という不安から福島の食品を忌避する人々もいる。こうした人々に向けて、実際に私たちが暮らしている場所や海外の都市、福島の現在の放射線量を測ることで比較したり、原発周辺の海で魚を釣って放射性物質を測定したりといった「実践」によって科学的な「知」を現実と結びつけることで、専門家と市民の対立を解消していくことが可能となる。(297)
※ 課題文では「科学が行政や企業を正当化する危険」について指摘してましたよね。


【2018年】課題文の出典は千葉雅也『勉強の哲学ー来るべきバカのために』(2017)。

(3) 筆者は、「ならばどうやって自由になることができるのでしょう?」という問いかけをしている。この問いについて、あなたはどのように考えるか。300字以内で述べなさい。

〈GV解答例〉
環境には目的があり、成員はその目的に則り行動するがゆえに他者と共同的な関係を結ぶことができるが、そこにあるノリはそれがある環境に特有のコードであることを忘れさせ、無意識に異分子を排除することにもつながる。そこから自由になるにはコードを相対化することであるが、そのために一つには別の環境に移ることが有効である。もう一つ、コミュニティの中に別のコードを生きる他者を招くことが今後より望まれるだろう。環境とは他者関係の総体であり、他者の構成が変われば自明のコードの見直しが進むとともに、内部の成員の他者性にも自覚的になれるだろう。そうした多様で柔軟な環境の中で、成員は自己を更新する自由を手にするのである。(300)

〈参考 RED本解答例〉
環境のノリから自由になるためには、筆者が述べるように自分が依存している環境のノリを客観視できるよう、広く世界に目を向け、異なる文化とそのコードについて勉強することが必要だと考える。私たちは、学校のノリ、家族のノリなどキャラを使い分けるが、ベースには日本文化のノリがある。自分が普遍的であると考えている日本文化のノリが、欧米やアジアなどの異なる文化を知ることで相対的なものであると理解できれば、「日本」という枠の中に押し込めている自分の行動の可能性を、より自由に広げていくことができるはずだ。したがって、私は世界に目を向け異文化について深く勉強することがノリからの自由につながると考える。(293)
※ 間違いではないです。内容を深めましょう。


【2019年】課題文の出典は宮本太郎『共生保障〈支え合い〉の戦略』(2017)。

(3)「社会的ジレンマ」について、本文中に例示されていない事例を具体的に一つ挙げ、その事例がどのような点で社会的ジレンマなのかを説明し、ジレンマを解消するためにあなたの考える対応策と合わせて300字以内で述べなさい。

〈GV解答例〉
現代社会では所得形態によって、労働により生計をたてる勤労世帯と、企業経営または投資により利益を増やす富裕層に分けることができる。そこでは前者が多数を占めるので、その多くが投票行動に出るなら、代議士もその所得の向上につながる政策的配慮を動機づけられるだろう。だが実際は、自分一人の投票では変わらないという意識が浸透し投票率が低く抑えられることで資金力と組織力に秀でる後者の意向が通りやすく、経済格差は拡大している。このジレンマを解消するには、学校や町村といった身近なレベルでの政治過程への参加を促し「自治」を可視化するとともに、コミュニティに参加すること自体への充実感を体感させることが効果的であろう。(300)

〈参考 RED本解答例〉
社会的ジレンマの例として、サービス残業が挙げられる。サービス残業を改善すれば、社員の意欲が向上し会社の業績も伸びる。しかし、その改善は管理職の個人的な利益と衝突するかもしれない。サービス残業を命じ人件費を圧縮できる管理職は役員から高く評価されるからである。このような「社会的ジレンマ」をなくすためには、社内の労働者全員がこの問題について話し合いながら、社員それぞれの利益と会社全体の利益を一致させる仕組みがいる。たとえば、部下の労働生産性が上司の評価を左右するという評価制度が考えられる。評価を求める管理職であればあるほど部下の労働環境改善に専心し、労働者全員が協力しあいやすくなるだろう。(295)
※ 使用者が諸悪の根源なのに、解決は使用者の善意を前提にしてます。


【2020年】課題文の出典は鷲田清一「小さな肯定」(内田樹『街場の平成論』(2019)より)。

(3) 平成の30年間に起きた社会の変化について述べた著者の主張の要約と、あなたが考える現代社会の問題の1例と、その問題に対するあなたの意見とを、合わせて300字以内で述べなさい。

〈GV解答例〉
冷戦の終結、バブル経済とその崩壊以降の日本では、資本主義原理の徹底と世界的展開の中で、国家の分配機能が弱まり相対的貧困と格差拡大が顕著になっている。一方で、国家と個人の間にある中間的な集団が衰退し、社会の中で拠り所を失った個人は資本主義の提供するシステムへの依存を強めている。これに伴い、政治においては無関心と大衆の感情に依拠するポピュリズム的な傾向が強まり、それに呼応してネット空間では真偽を問わないポストトゥルース的な言動や排外主義的主張が問題化している。こうした問題の背景には、経済的な安定性を欠き心理的にも鬱屈した個人が、「正しさ」への感度を弱め知性への信頼を失っている面があるのではないか。(300)

〈参考 RED本解答例〉
著者は、平成の30年間に起きた社会の変化として、国家と個人のあいだにある中間的な集団が痩せ細ってきたことを挙げ、その理由を、社会維持のために不可欠な《相互扶助》がサーヴィスを「買う」という構造に転換されたからとしている。この変化によって生じた社会問題として、雇用の不安定化が挙げられる。非正規雇用者が増加したことで、中間的な集団である労働組合の組織率が下がり、市場の影響をまともに受けて賃金が下がったり、色を失ったりする労働者が増えているのだ。正規雇用者だけでなく非正規雇用者を含めた労働組合の組織化を進め、相互扶助によって労働者の権利が守られるように、中間的な集団を強固にしていくことが必要と考える。(300)
※ 間違いではありませんが、解決を労働組合の強化に求めるのは現実的ではないかも。


【2021年】課題文の出典は蘇我謙吾『日本の地方政府 1700 自治体の実態と課題』(2019)。

(3) 問題文を踏まえた上で、人々が住みやすく、そして住民の福祉を向上させるという目的に照らして、日本における市町村の合併の良い点、悪い点についてあなたの考えを300字以内で述べなさい。

〈GV解答例〉
日本における市町村の合併は、主に財源の強化と業務の統合、行政の効率化を目的としている。それにより自治体が国からの独立性を強め、独自の政策を打ち出し住民の福祉サービスを向上させることも可能だろう。しかし一方で、自治体内部においては効率化の名の下に不採算部門が切り捨てられると、中心地域と周辺地域の間で受益の格差が進み、地域間の文化的な差異も画一化されていく恐れがある。例えば、交通路線や学校の統廃合によって周辺地域の高齢者や子どもに不利益が生まれ、周辺から中心への人口移動も進むだろう。以上より市町村合併において肝要なのは、効率化により浮いた予算や人材を改めて周辺地域の維持・強化に回すことだと考える。(300)

〈参考 RED本解答例〉
日本における市町村の合併の良い点とは、市町村が福祉政策などの行政の権限を持つことで、より地域の個性に合った行政サービスが可能となると同時に、財政基盤の拡大によって住民サービスの高度化や多様化、公共施設の効率的な配置などの効率化も行える点である。近隣の地域が合併することで、より広域的な街づくりが可能になるのも良い点である。一方、行政区域が拡大するため、有効な施策を実施できなければ、中心地にのみ公共施設が集中するなどの地域格差や、地域内のつながりが薄れることが懸念される。また、議員数の減少にもつながるため、自治体と住民の距離が拡大し、住民の意見が反映されにくくなることも悪い点として挙げられる。(298)
※ これはオッケーです。その上で両論を併記した場合の矛盾点について考えてみましょう。

いいなと思ったら応援しよう!