一瞬で友情が芽生える頭痛
友達がいないと言い張る私
「サユリン、銭湯行かない?サウナ入ろうよ。その後三茶あたりで飲もう。」
前日チャコリンからそうメッセージが入った。
私は引きこもり大好きな出不精で、外出の誘いがあっても「今日はいいや。」と断ることも少なくないが、チャコリンの誘いはまあまあ私のツボをついてくることが多い。
普通っちゃ普通だが、私はサウナや岩盤浴や美味しいものが好きなのだ。その中でもチャコリンのセレクトは私のツボを中々的確についてくる。そんなわけで、今のところ友人の中でもチャコリンの誘いにのってしまう確率が高い気がする。
ところで私は「友達」という表現が苦手だ。なのでチャコリンのような人を「友人」と表現することが多い。
できるだけ「友達」以外の表現をしたいのだが日本語で誰もがわかる言葉で的確なものが中々ない。「知り合い」ほどよそよそしくもないし、「親友」はさらに苦手だし、「同士(志)」とか「仲間」と呼ぶにはその理由付けが必要になる。(我ながらめんどくさい)
結局「友人」と言う表現が適度に距離感があって大人らしく、かつ親しげでいいように思い採用している。
そんなわけで裸の付き合いをするほど親しくしているチャコリンも「友人」である。
しかも私は、よせばいいのに「私は友達はいない」と友人達の前でも発言する時があり、それに批判的な意見が出る事もある。
「じゃあ私達はなんなの?うわべだけの付き合い?」とか
「サユリンって人嫌いなの?」
とか言われてしまうが、もちろんそんな事はない。なのでそんな時は
「私は他人のことに不必要には踏み込まないけれど、あなたは大切な人だよ。」と伝えておきたい。それでなんとなくでもわかってもらえる気がするし、わかってもらえなくてもそれはそれでいいと思う。ただ、友人達の事は大好きであるのは間違いないし、私の友人達に対する感情は、一般的に言う「友達への友情」と同じかもしれないし、なんならもっと愛は深いようにも思う。
それでも、もし友人の誰かから突然「サユリンは私の親友だから。」なんて言われようもんならなんともモゾモゾしてその場で帰りたくなるだろう。コミュニケーションを教えることもある私だが、元々自分が苦手で苦しんだからこそできるアドバイスがあるのだと改めて思う。
さてそんなわけで「友人」であるチャコリンのメッセージにはまんまと釣られて、
「いいよ、行こう。何時?」と返信をする。
「えとね、サユリンはまだ会ったことないんだけど近所の友達のミポリンって子も誘ってるんだ。彼氏と別れたばっかりなんだって。」
「ほぅ、それはせつないね。でもサウナのデトックスからの飲みはいい提案だね。」
「そうなんだよ。それに恋愛の話と言えばサユリンでしょ。仕事にしてるくらいだから。いいでしょ?いい考えでしょ?」
「そう思うよ。んじゃ現地で、明日ね。」
裸は一気に友情を芽生えさせる
当日。私はその銭湯の最寄駅に早めに着いてしまった。
まぁ、のんびり歩いていこうとテクテクと初対面の街を散歩しながらGoogleの道案内に従う素直な私。不慣れな場所ではGoogle先生は神でしかない。時々ありえない道に誘導される時もあるがその後もまた頼ってしまう先生への信頼度の高さよ。
先生の案内では突き当たりを右となっていたのだが、そのまさに突き当たり真正面には立派なお社があるではないか。
(あ、ここが駅名にもなってる太子堂ね。なるほど、ついでに参拝しよう、時間もあるし。)
私は丁寧にお辞儀をして鳥居をくぐる。御朱印を集めたりはしない人だが、旅先などでふと出会った神社やお寺に参拝は必ずと言っていいくらいやっている。
ところで参拝する神様をえこ贔屓してはいけないのかもしれないがお賽銭に差をつける事がある。目的地とした神社にはお賽銭は1,000円札にしていて、今回のようなふと出会い頭の神社の場合はお賽銭はだいたい100円だ。
仕方ない。男女間でも狙っている異性には大金使うことはあるだろうが、ふと出会ったばかりの異性に大金使う人はあまりいないだろう。それと同じだ。仕方ないのだ、と心の中で言い訳をする。
出会い頭100円の参拝の後、ふと見ると左右に絵馬を描く場所がある。お社をはさんで右側には通常の絵馬、左側には縁結びの恋愛絵馬コーナーがあった。ちなみにどちらも300円。安いな。(やはりケチくさい)
なるほど。
この恋愛絵馬を銭湯の後チャコリンとミポリンを誘って書きに来ようと思った。考えたら3人共フリーなわけだし。チャコリン同様私もナイスアイディアだと思った。きっとこの提案は傷心のミポリンも喜んでくれるだろう。
まだ会ってもいないミポリンの失恋を癒すネタを1つ見つけてとても気分が良くなった。
1人の間にと右側の通常絵馬を描くことにした。今取り組んでいる仕事の成功祈願だ。相変わらず根が真面目で我ながらいい。
太子堂を出て少し歩いたら「サユリン!」と声をかけられて、見ると満面の笑みの友人チャコリンだった。一緒のはずのまだ見ぬミポリンはいない。まぁ、たぶん現地集合なんだろうと思ってわざわざ訊かない。
一緒に銭湯まで歩いて行った。
この銭湯はサウナ込みで750円で、しかもタオルセットも付いていてかなりお得だと嬉しくなった。近所なら週2回は行くなぁ。しかも私が大好きで誕生日も同じの壇蜜さんが現れる時もあるという噂だ。
私はもし浴場で壇蜜さんに遭遇できたらお近づきになるための脳内シミュレーションもパターンCまで完璧だった。
先にお伝えするが、この後の話には壇蜜さんは一切登場しない。
昔ながらの銭湯で番台に高齢の女性がいて、サウナ付きでというとさっさとタオルセットと鍵をくれる。靴箱の木札といい、とても素敵な昭和感だ。
私とチャコリンは度々お風呂に行っているので、脱衣所では2人とも躊躇のかけらもなくさっさと脱ぐ。チャコリンはお風呂場でもあまりにも堂々としていて謎の迫力がある。ちなみに全体のふくよかな姿から裏切らない巨乳っぷりだ。すげぃ、すげぃぜチャコリン。仁王立ちがかっけぇ。
2人とも体を流し、まずは湯船に浸かる。サウナの効果を上げたいのでまずウォーミングアップが大事なわけだが、しかしこの銭湯はやたら温度が熱い。温度計を見ると湯温が42℃となっていたが、明らかにそんな適温ではない。太ももあたりまで頑張って浸かるが、たまらず出る。ほんの一瞬なのに足がくっきりピンクに染まる。おい!絶対これ45℃はあるだろ!と思うわけだが、平然と年齢の高いご婦人達が浸かっていたりするので、熟年の女性の皮膚構造や体感温度は私達とは違うんじゃないかと本気で思う。
いくつかある浴槽の中で1番ぬるい(というか適温)の湯船を見つけ、まったりと浸かってからサウナに入る。うむ、温度高め、湿度は多くないが悪くはない。少ししてからチャコリンに尋ねてみる。
「ね、そういえばミポリンって子はお風呂こないの?」
「本当だねぇ、ちょっとメッセージ見てくる。」
「うん。場所わかってるのかな?」
「あ、もしかしたら別の銭湯のリンクとどっちにするかで2つ送ってたからそっちに間違えたかな?」
「そうじゃない?チャコリンのメッセージ、よく勘違いしやすいのあるよ。」
「え、そうなの?!」
「そうだよ、わりといつもだよ。あとチャコリン人の話あんまり話聞いてない事多いから、なんかメッセージ見逃してるのかもよ。」
「えー、見てくる!」
結論を言うと、やはりミポリンは勘違いで近くの別の銭湯にいたらしい。今からこちらに改めて来るとのことだった。私たちは熱めのサウナから出て、休憩しながら待つ。その間に、私はなんとなくチャコリンに近況を話す。
「そういえばさ、来週男の人から2人でご飯行こうって誘いがあるんやけど、なんかのらないんだよね。でも恋活的には行った方がいいんだろうかね。」
「何?私に相談してるの?やめてよ。」
うむ、たしかに言う相手を間違えたような気もする。
「いや、チャコリンと去年暮れに来年は幸せのために恋活ちゃんとやろうってお互い励まし合ったから、言ってみただけ。」
「のらないなら時間もったいなくない?」
「そうだね。やめるわ。」(結果行かなかった)
「うん。あ、ミポリン来た!」
ようやく現れたミポリンはFacebookのプロフィール写真よりはるかに可愛い女の子だった。私はサウナあと休憩していたので、ミポリンがいそいそと服を脱いでいるところに「はじめましてー」とそのまま登場した。初対面の挨拶が汗まみれの裸体という、なんとも一気に距離が縮まるシチュエーションであるが、ミポリンはすぐに私の「友人」になる予感に溢れていた。
「サユリンです。初対面がこんな姿でごめんね。」
と言うとミポリンはアハハ、と笑ってくれた。はい、もういい子です。
「こちらこそ遅くなってすみません!サユリンFacebookで見てます。なんか有名ですよね!」
「嬉しいー、ありがとう。」なんか有名、という表現がジワる。
裸で汗まみれなところ以外はごく普通の会話をして、私達はサウナに3人で入る。温度が高い上に二巡目なのですぐに汗が出る。
サウナの中でチャコリンが「ミポリン、彼氏と別れたばっかなんだよ、だから今日は恋愛アドバイザーのサユリンを呼んだわけよ!でさ、サウナでデトックスでしょ。そんでさ、サユリンに話聞いてもらえばいいじゃん。いい考えでしょ?」と私に言ったことを再度全員集合の場面で言い直す。褒めてほしいんだなと思って「チャコリン、素晴らしいセレクトだね。」と褒めてやった。
ここのサウナは熱い。好きなタイプだ。昨今の疫病の恐怖心から、サウナの中でもマスクをしているご婦人が二人もいた。
高温サウナの中で素っ裸にマスク。そんな姿でもサウナには入りたいご婦人方はよほどサウナへの情熱が強いのだろう。知らんけど。
私達はミポリンの元カレの悪行を聞きながら、「そんな男とは幸せな未来なかったよ、もし結婚なんかしちゃってたら別れるのも大変だし、今でよかったじゃん。」と励ましつつ熱さに限界まで耐え抜いた。
サウナ部屋を出て、水風呂へ向かう。だがすぐに浸かる勇気はない。私もチャコリンも水風呂が得意ではないのだ。身体に水をかけるだけでも「うおおおお。」となる。
ところが一見1番か弱そうなミポリンが潔く水風呂に浸かる。しかも「慣れたら気持ちいいですよ!入りましょう!」と誘われている。
うむ。今日は傷心のミポリンに寄り添うのだった。私とチャコリンも勇気を出して浸かる。
ぐおおおおお!!×②
一気に全身に冷気が伝わるが、と同時に脳天まで爽快感が突き抜ける。ああ、例の整う、てやつだ。
私はミポリンに恋愛アドバイザーらしい事を話す。
「ミポリン、私の相談者さんもね、似たような方今まで沢山いたんだよ。結婚前提と思ってた彼氏に裏切られたりとか。」
「そうなんですか!みんなどうやって乗り越えたんだろう…」
「うん、結局は時間と共に前向きになるしかないんだけど、でもね、そんな人達は必ずと言うくらい、次にちゃんと誠実な素敵な人と結ばれてるんだよ。だからミポリンにも必ずそんな日が来るよ。」
「本当?!私もそうなれるかな?」
「うん。私思うんだけど、元カレのその席はさ、もっと素敵な人が座る席なんだよ。だから、その席空けるためにそういう事か起きると思うのよね。確かに渦中は辛い。私も経験あるし。でも後ではそれでよかったって時が必ず来る。それを早めるために前を向いて次に行こうって決めるだけなんだよね。」
と、いいこと言ってる私。
「でもさー、毎回同じような男の人とばっかり付き合って同じこと繰り返す人も結構いるよね!」
チャコリンはいつも空気を読まない。
「そうだよ。だから同じ失敗しないように経験があるんだよ。幸せになるための経験なの!ミポリンは可愛いし優しいし、きっと素敵な人と縁ができるよ。」
「そうだね!3人で恋活しよーぜ!」
「嬉しい〜元気出てきた!」
水風呂に浸かりながら3人で励まし合っていると、まるで「友達」みたいだなと思い、胸がじんわりと暖かくなる。が、同時に全身の冷えで頭がずんと痛くなった。クラクラしてくる。もちろんこれは冷気よるものなのだろうけど、もしかしたら私は友情を感じたら頭痛が発生する特異体質ではないかと妄想したりする。それくらい久しぶりな感覚だったのかもしれない。
私達は「頑張ろー!」と言いながら、再度の整いに向けてまたサウナ部屋へ向かった。
有言実行即行動
友人の友人は友人
サウナの後3人とも「ビール飲みたい!」を連呼していたが、私達はその前にやる事があった。行き道に発見した太子堂の恋愛絵馬を書くのだ。この提案はやはり2人とも喜んでくれた。
私達は太子堂参拝後それぞれの希望を絵馬に書く。同年代のチャコリンは再婚も希望のようだが、私はその目的も薄い。「贅沢は言わないけどなぁ。」と言いながらなんと書くか迷う。これも1つのアウトプットなので、より具体的な方が効果が高いはずで、となるとどんなパートナーが良いのか?を考えていた。
歳を重ねるごとにパートナーへの求めるものが変わっていた。お金や地位や名誉にかなり興味も薄れているし、すでに子供も2人産み育てているので子供を産みたいわけでもない。なので再婚はしてもしなくてもいいのだが、毎日快適で楽しく、かつ美容と健康のためにも女性ホルモンは分泌させ続けたい。
なので、「素敵なパートナーと結ばれます♡」に続いて「精力強めの好みのイケメン希望。」と書き添えた。
それを見たチャコリンとミポリンは「サユリンめっちゃ贅沢書いてるじゃん!」と笑った。
3人とも無事絵馬を吊るし、ビールを飲みに行くことに。たぶんチャコリンはもうお店は目星をつけているはずだ。
「チャコリン、いいとこある?私今日はお肉にワインではなくお魚に日本酒の気分なんやけど。」
「任せて!いいとこある!」
そう言ってチャコリンが案内してくれた寿司居酒屋は、確かに私の好みっぽい。
「お、いいね!こゆとこ好きだわ!」
「でしょー!私はサユリンの好みわかってるのよ!」
と言うチャコリンは愛に溢れたかなりのドヤ顔だった。
私達は最高の生ビールを飲みながら、今後の恋活について話す。私は昨今の疫病騒ぎで流れてしまっていた合コンの話をふと思い出した。
「ね、前頼まれてた芸能関係の人達との合コンあるけど3人で行かない?」
「なにそれ行く!」
「よし、連絡しよう。」
先方にメッセージを送ると、即返信が来て、あっという間に予定が決まった。
「何かプロレスラーとかも来るって。」
「おもろ。お姫様抱っこしてもらえるね。」
「私おっきい人好き!」
「チャコリンのその好み知ってる。」
また返信が来た。
「4人にして欲しいってー。私誰でも大丈夫だから、誰かも1人誘うの2人で決めていいよ。」
そう言うと、チャコリンとミポリンはとある女性の名前をあげた。私はその彼女とは会ったことはなかったが、SNSで顔を知っている、くらいの関係だが快諾した。
何と言ってもこの親愛なる「友人」達がすすめる女性なのだから、
彼女とも確実に「友人」になれる予感に溢れていた。
※人物名、内容は一部フィクションです