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2020/02/14 read proofs/校正の効用

仕事柄、人の書いた文章を読んで校正する機会が多い。

前任校では、年に3回発行する学校報の編集を4年間ひとりで担当した。書き手は教員とPTAの保護者の方々で、多くの人が快く記事を書いてくれるが、一方で「全面的に任せるので、おかしなところは直してくださいね」と言われることも多かった。学校報は、学期ごとの生徒や学校の様子を紹介するカラー刷の冊子(40ページ前後)だが、外部の方にもお渡しする機会があるものなので、確かに色々と気を遣うことがあった。そこで目を皿にして校正する。

また、同僚や上司から資料の校正を頼まれることも多かった。国語科だし、上記のような編集仕事もしているしというので、頼りにしてもらったのだろう。信用してもらえるのはありがたいことだ。彼らから渡される文章は、職場内の紀要のようなものであったり、よそからの依頼原稿だったりして、こちらも割に気を遣うものが多かった。

もちろん国語科教員としては、生徒の種々の文章指導も日常的な仕事の一つだ。夏から秋にかけてはAO入試や推薦入試の書類、2月は国公立大2次試験の記述解答や小論文がそれぞれ多くなるが、そのために年中何かしらの文章を読み、添削をしている。(生徒に対しては「指導」なので、生徒自身が考えて書くことや気づくことを促すけれど。)

人の文章を読んで手直しをするとき、いつも思い出すのは大学院生のときにお世話になった出版社のことだ。
I先生の退職記念論集に原稿を載せていただくことになったとき、原稿を丁寧に読み込み、稿者の自分が気づいていなかった細かな点まで編集の方に指摘してもらったことがある。
自社で出す本の編集だから誤りや矛盾がないように校正するのはもちろん彼ら編集者の仕事なのだけれど、そこにプロの仕事を見た思いがして、わたしはとても感心したし、感動したのだ。

編集者や校正者のようなプロではないにせよ、書くこととその手直しや校正が日常にある仕事をしている以上、正確であることやよりよいものにすることを心掛ける。指摘された人はうるさいなあと感じることもあるかもしれないけれど、こちらのできることはしておこうと思う。件の編集者の方に校正してもらって嬉しかったからだ。

校正は気を遣うし面倒ではあるのだけれど、効用もある。数をこなしていくうちに、言い換えや文章の書き方について、おのずと学んでいることだ。

丸谷才一『文章読本』(中公文庫)では、文章上達の唯一の秘訣を「名文を読むこと」とする。

 しかし文章上達の秘訣はただ一つしかない。あるいは、そのただ一つが要諦であって、他はことごとく枝葉末節にすぎない。当然わたしはまづ肝心の一事について論じようとする。
 とものものしく構へたあとで、秘訣とは何のことはない名文を読むことだと言へば、人は拍子抜けして、馬鹿にするなとつぶやくかもしれない。そんな迂遠な話では困ると嘆く向きもあらう。だがわたしは大まじめだし、迂遠であらうとなからうと、とにかくこれしか道はないのである。観念するしかない。作文の極意はだだ名文に親しむこと、それに盡きる。

――丸谷才一「第二章 名文を読め」(『文書読本』中公文庫)

高校生の時分から筒井康隆と並び敬愛してきた丸谷才一の教えをわたしは心掛けている。だから、この記事で述べる校正の効用というのは丸谷さんの言う枝葉末節でしかないのは分かっている。

とはいえ、他者の文章を客観的に読むことと、それを読むことに責任を持つこととで得られる気づきがある。文意は変えずに単語や語序を変えることを模索するとき、辞書を引いたり、頭の中のあれこれを引っ張り出したりする。そのことが、言葉との出会い直しとなり、わたし自身の学びにつながっているのだ。遠回りしか道のない文章上達なのであれば、こういう寄り道が時々あってもいいだろう。


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《2020/02/14 補記》
校正記号を仕えるようになるのは結構便利です。元々は論文の校正のために憶えました。最近は、上記の用途以外に入試問題の校正でも使います。
実用的なのは、日本エディタースクール『校正記号の使い方 第2版』。読み物でおもしろかったのは、野村保惠『本の品格 電子書籍にも必要な校正読本』(印刷学会出版部)



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クボタエリナ
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