『トカイナカに生きる』
まだ自分が幼い頃から、
小学校を卒業する位まで、
毎年夏休みに一週間ほど、
外房の大原というところに泊りがけで
遊びに行った。
父が伯父と共同で別荘を買ったお陰と
記憶している。
海水浴場から歩いて10分弱。
九十九里は波が荒く、
子どもには少々危険なほどだったが、
疲れきるまで波と戯れたものだ。
途中に沢蟹が生息する沢があり、
虫取り網でつかまえて、家で飼って
いたこともある。
庭には草がぼうぼう生えていて、
到着初日は草刈り三昧。
モグラの穴を見つけたり、
カブトムシやクワガタを捕獲したり、
真っ黒に日焼けして、ひたすら元気に
遊びまわったのが懐かしい思い出。
その大原という田舎町は、
当時「夷隅郡大原町」だったが、
市町村合併に伴い消滅。
現在は「町」が取れて
「いすみ市大原」という地名である。
その「いすみ市」が、葛飾北斎の
「神奈川県沖浪裏」と深い関係がある
など、聞いたことがなかった。
実は、北斎に影響を与えた伊八という
彫り師の『波に宝珠』という作品が、
明らかに「神奈川県沖浪裏」そっくりな
構図なのだ。
そんないすみ市で、「よそ者力」を
発揮して町おこしをしている人物が
いる。
ツーリズムいすみのCMOとCFOを
兼ねる、山内絢人氏だ。
なんとこの人、東大法学部を出て
財務省主計局にいたという、
日本のエリートの中のエリート。
それが、何を思ったか官僚を辞めて
起業。
今はいすみ市に移住して、
「地方の現場を分かっていない国」と
「国の意思を分かっていない地方」の
両方の視点を持つ人間として中継役を
担い、日本の価値の発掘に取り組むと
いう志を果たさんとしている。
その具体的な内容については、
是非この本を読んでいただきたい。
佐村河内事件の報道で第45回大宅壮一
ノンフィクション賞を受賞するなど、
その取材力と、読ませる文章力に
ファンの多い、作家の神山典士さん。
彼が今取り組んでいる「トカイナカ」
ムーブメントの実態をイキイキと描写
している本である。
いすみ市の例だけでない。
軽井沢で「追分男子」を名乗り、
地元農家、飲食業、別荘族といった
関係者たちを繋げまくっている
異才の話。
「田舎でフリーランス養成講座」
通称「イナフリ」を運営して、
自身も千葉県富津市金谷という
「田舎」で見事に成功を収める
起業家の話。
有機農業ひと筋に邁進し、
やがて周囲を徐々に巻き込んで、
地域だけでなく全国に多くの弟子を
育んできた、埼玉県小川町の
金子美登さんの話。
どの話も、丁寧な取材に裏打ちされた
中身の濃いものだ。
読み始めると、きっとページを繰る手が
止まらないだろう。
トカイとイナカのいいとこ取りという
意味合いの「トカイナカ」。
そこで暮らすというライフスタイルの
魅力、意義、意味を余すことなく
伝えてくれる一冊である。
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