ボラティリティの推定

こんにちは。今回は「ボラティリティの推定」をテーマに進めていきます。

「期待値」の回で解説した通り、価格変動の確率分布を定めるには大抵の場合「期待リターン」と「ボラティリティ」を推定する必要があります。

前回はその片方である期待リターンの推定について学びました。今回はもう一方のボラティリティです。

復習をしておくと、期待リターンの推定には過去のデータからリターン(日々の価格変動)を計算して、その平均を取る方法を、簡単な方法ですが紹介しました。

ボラティリティは、統計用語に置き換えれば「標準偏差」のことなので、その算出には期待値(価格変動でいう期待リターン)が必要です。よって、今回のボラティリティの推定でも、前回学んだ方法で推定した期待リターンを用いて推定してみます。

ボラティリティとは、値動きの荒さのことです。今後値動きがどう荒くなっていくかということを予想するために今後のボラティリティを推定します。

この推定には、大きく分けて2種類あります。

1つ目は、「インプライド・ボラティリティ」です。これは、先物価格の値動きから逆算して算出します。

まだ先物について解説していないので、詳細は述べませんが、先物とは簡単にいうと未来の価格を予想して売買されている商品のことです。よって、先物価格とは未来の価格を予想した結果の値動きなので、イメージ的にはみんなが予想している未来の値動きから逆算して今後の値動きを予想することになります。

先物価格のデータは取得が難しいという点や、一部の商品によってはそう頻繁に取引されているものでもないので、今回はこのインプライド・ボラティリティを用いての推定は扱いません。

そこで2つ目に紹介するのが、「ヒストリカル・ボラティリティ」です。これは、その商品の過去の値動きから逆算して算出します。

勘がいい人は気付くかもしれませんが、期待リターンが出ていれば、このヒストリカル・ボラティリティの算出自体はとても簡単です。過去のリターンのデータを用意して、その標準偏差を取れば、それがヒストリカル・ボラティリティとなります。

しかし、ここで問題が生じます。理論でも実務でも最も問題となるのが、「過去どれくらいの期間のデータを用いるのか」です。期待リターンの推定ではあまり述べませんでしたが、実はこの「データの期間」は非常に大事です。

過去T日間のデータを用いて算出したヒストリカル・ボラティリティのことを特にT日間ヒストリカル・ボラティリティと言います。T日間ヒストリカル・ボラティリティの算出式はこうなります。これは一般的な標準偏差の算出と全く同じです。

T日間ヒストリカル・ボラティリティ

= (2日目のリターン -    T日間の平均リターン)^ 2    +    ...    +    (T日目のリターン    -    T日間の平均リターン)^ 2    /    (T    -    1)

となります。T日分のうち1日目はリターンを定義できませんので、リターンはT-1個のデータとして出てきます。そのデータの標準偏差ですから、上のような式になります。ちなみに、^2 は2乗という意味です。

では、一体Tをどれくらいにすれば良いのでしょうか。

何度も言いますが、ボラティリティとは値動きの幅を表しますので、その証券の「リスク」を表していると言えます。

よって、実務の世界でも、このリスク算出のためにボラティリティを推定しています。

私は銀行のリスク管理部で長期のインターンシップに参加していたことがあるのですが、そこで聞いた話だと、実務で用いているヒストリカル・ボラティリティはせいぜい2年程度の期間だとお聞きしました。よって、2年程度の期間で算出したヒストリカル・ボラティリティはリスクの推定という意味では良さそうな期間なのかもしれません。

実務では何のためにヒストリカル・ボラティリティを算出するかというと、今後長期的に金融商品を保有する中で、大きな値下がりが起こって自社が持つお金がなくならないかというリスクを量るために算出しています。そして、このヒストリカル・ボラティリティは通常1年程度ごとに見直したりするようです。

よって、今後1年以上の長期的なリスクを量るときには、過去1〜2年程度のデータを用いてヒストリカル・ボラティリティを算出すれば良さそうです。

それでは、直近のリスクを表すためにはどうすればいいでしょうか。これは様々な議論がありますが、1つ紹介します。

実証研究を紹介すると、株式市場の世界では、過去の直近の値動きと今後の直近の値動きはやや相関があるという報告があります。つまり、ここ数日間で値動きが荒かった(ボラティリティが高かった)銘柄は今後数日間も値動きが荒くなりやすい(ボラティリティが高くなりやすい)ということを示しています。

よって、直近(数日〜数週間)のヒストリカル・ボラティリティを算出すれば、それが今後直近(数日〜数週間)のボラティリティを、可能性としては近い値となりそうです。

少し説明が長くなってしまいましたが、最後に完結にまとめていますので、そちらで頭を整理しつつ、理解が足りないところについては個人で証券会社の解説ページなどを参照するなどしてみてください。


〜まとめ〜

・ボラティリティの推定には、インプライド・ボラティリティとヒストリカル・ボラティリティという大きく2つの考え方がある。

・インプライド・ボラティリティとは、先物価格(予想将来価格)の値動きから逆算して算出されたボラティリティである。

・ヒストリカル・ボラティリティとは、過去の値動きから算出されたボラティリティである。特に、過去T日間のデータを用いて算出されたヒストリカル・ボラティリティを、T日間ヒストリカル・ボラティリティという。

・金融機関の実務的な観点を参考にすれば、今後1年以上の長期的なリスク(ボラティリティ)の算出には、1〜2年のヒストリカル・ボラティリティを用いると良い。

・実証研究を参考にすれば、今後短期的なリスク(ボラティリティ)の算出には、数日〜数週間のヒストリカル・ボラティリティを用いると良い。


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