『河童が覗いたインド』を読んだ
2022/6/18、読了。
5年前くらいまで想像だにしていなかったが、いつの間にかインドという国は、自分にとってかなりのウェイトを占める国になっていた。「どうしてインドを選んだの?」という質問を、今まで何度されたか分からない。その度に「遠藤周作の『深い河』を読んでその宗教観に感銘を受けたから」「変わった文字がやりたかったから」「ヒンディー語は話者人口が多い割に日本では浸透していないため専門性を高めることができそうだから」「経済成長が見込めそうだから」「後期試験の倍率が低かったから」など、その場の状況に応じて色々な答えをしてきた。別に嘘をついたわけではない。そのどれもが本当で、でも最大の理由ではない。
白状しよう。もう時効だ。ぼくがインドを選んだ最大の理由は「ウケるだろうな」という漠然とした期待だった。ヒンディー語専攻ってなんだよ。そう思ったらもう止まらなくて、気づいたら願書を出していた。英語の試験でゴッホの伝記が出たのだが、たまたま本で読んだことがあったので内容を知っていた。運だけだ。運だけで、ぼくは晴れてヒンディー語学徒になった。
「インドにいける奴といけない奴がいる。それは個人のカルマによる。 君がインドに行くのではない。インドが君を呼ぶんだ」と三島由紀夫は言った。或いは本当にそうなのかもしれない、とも思う。
滞在中は商人の押しの強さと猛烈な下痢に悩まされ、こんな国二度と来てたまるかと強く思うのに、帰ってきてしばらく経ってみると、あの独特な生命力の強さをまた浴びたくなってくるのだから不思議である。好きだからインドに行きたくなるというよりも、怖いもの見たさで行きたくなるというほうが正しいのかもしれない。
著者の妹尾河童氏について思うのは、なんて旅の上手い人だ、ということだ。下手したら少年よりも旺盛な好奇心で、土地にまつわる歴史を自分の中に取り込む。現地の方とのコミュニケーションを面倒がらずに、できるだけ自分のやりたいことを実現しようとする。外大のくせに旅が下手なので羨ましい。プランを立てるガッツが皆無なのだ。綺麗な景色を見てもハア〜と思うだけで、すぐに持参した本を読み始めてしまう。表紙からも分かる通りの細密で端正な絵柄、まるでフォントのような味があるのに読み易い字!ぼくの貧相な画力ではどだい無理な話だが、河童氏のようにスケッチ片手に旅をすることができたらなんて素敵なのだろう。
この本をガイドブック代わりにインドに行きたくなる。バラナシに行きそびれたのが心残りなのを思い出した。