見出し画像

3話★初めての給食当番★ 小学1年生の物語 現代の給食 学校のルール クラスの友達 先生の食育指導

アクセスして頂き、有り難うございます。
人生で初めての給食当番を担当する、小学1年生の物語です。
学校の給食のルールも、取り入れています。
今回は3話です。

1章★仲良しの友達


昨日は、お母さんとお父さんが僕を励ましてくれた。

「どんな事でも応援するわよ。
頑張った事は、必ずマサムネを成長させるから。」

2人の顔を見て、僕の気持ちは固まった。

キーンコーン カーンコーン

次の日の朝になると、僕は学校に到着して すぐに先生を探した。

「あっ、いた!先生~!」

廊下を歩いていた先生は、驚いて振り返る。

「んっ?どうしたの?」

「僕がフルーツポンチを配ります!」

「そう。でも、まずは挨拶をしましょう。
おはようございます。」

「あっ!おはようございます!」

(しまった!挨拶が先だった!)
そう思いながら、僕は頭を下げた。

「給食当番を、カスミちゃんと代わります!」

「カスミちゃんに頼まれたの?」

「はい。」

「ふーん。」

先生は、少し黙った。
ダメなのかな?
僕は、そう思いながら拳を握った。

「あの、僕は家でフルーツポンチをお皿に入れる練習をしたんです。」

「えっ?練習をしたの!?
マサムネ君は、頑張りやだね!」

先生は、笑顔になった。

「でも、一度カスミちゃんと話したいから、少し待ってくれるかな?」

「あっ、はい。」

僕が返事をすると、先生は しゃがんで僕の顔を見た。

「マサムネ君に やる気があるのは、とても良いことだね!」

そう言われた僕は嬉しくなって、早足で教室に向かった。



教室に入ると、先生に話した事を一班のみんなに伝えた。

「ありがとう!マサムネ君!
先生が良いって言ったら、代わってね!」

カスミちゃんは、すごく嬉しそうだった。

すると、アンナちゃんとアヤちゃんがカスミちゃんを間に挟んだ。

「良かったね、カスミちゃん。
うちのお兄ちゃんは、給食当番で食缶を落とした時、みんなに嫌な顔をされたんだよ。
だから、食缶は やめたほうがいいよ。」

「そうだよ。男の子がやればいいんだよ。」

そう言って女の子達は、僕から離れていった。

僕の胸は、チクリとした。

そんな事を言わなくてもいいのに・・。
僕が不安になっちゃうじゃん!

もしも僕が給食当番を失敗したら、その時は何て言われるだろう?

「マサムネ君が、自分でやるって言ったのに~。」
「失敗しないでよ~。」

そう言われるんじゃないかな・・。
小さかった不安な気持ちが、 大きく膨らんでしまった。

でも、その日の放課後に先生に言われちゃったんだ。

「フルーツポンチの当番は、 マサムネ君にお願いするよ。よろしくね。」

「・・はい。」

僕は、やっぱり嫌とは言えなくなった。

「さようなら。」
「気をつけて帰ってね。」

学校が終わって、僕はテツ君とコウ君と並んで帰った。

「あのさ・・。
給食当番で、僕がフルーツポンチを配る事になったんだ。」

少し弱気な声で、2人に伝えた。

「僕は、マサムネ君ならできると思うな。」

テツ君は、僕の背中を押そうとしてくれているみたい。

でも、呑気なコウ君は いつも通りクネクネ動いている。

「フルーツポンチンチ~ン!」

腰を振りながら、踊り始めちゃったよ。

いつもなら笑えたけど、今の僕はイラッとした。

「食べるだけなら良いよね!
僕は、嫌な事を押し付けられたんだよ!」

僕が大きな声を上げたから、コウ君は目をパチクリさせた。

「なんで嫌なの?」

「えぇっ?
だって、フルーツポンチなんだよ。
量がバラバラだったり、最後に足りなくなったら、みんなに嫌な顔をされるでしょ?」

「じゃあ、みんなに嫌な顔をされなければいいんだね!僕に任せてよ!フフフ!」

そう言ってコウ君が笑ったから、 僕は嬉しくなった。

「コウ君が、給食当番を代わってくれるの?」

「ううん!代わらないよ!」

「あっ、そう・・。」

期待をして損をした僕の横で、コウ君は両手を上げた。

「モノマネをしま~す!いっくよ~!
僕じゃ、できないですぅ~。
フルーツポンチを配れないですぅ~。バブ~。」

「あははははは!」

テツ君が お腹を抱えて笑い出した。

「先に帰る!」

僕はイライラする気持ちで、背中を向ける。
すると、テツ君は 慌てて僕の横に並んだ。

「待ってよ、マサムネ君!僕も手伝うよ!
僕に できる事を考えてみるね。」

「えっ?何を手伝うの?」

「うーん・・。何ができるかは、わからないけど。」

そう言って、テツ君は腕を組んで考え始めた。

「給食当番を代わる事は できないしなぁ・・。」

「そうだよね・・。はぁ~。」

ため息をついて、僕は歩き出した。

「待ってよ!マサムネ君!」

僕は、テツ君の声を無視した。

「待ってよ!ねぇ、マサムネ君!」

「えっ!?」

突然、その声は天使の声に変わったんだ。

「フルポンフェスに出るのは、マサムネ君なんだね。」

「あぁっ!サクラちゃん!」

パパパッパパパーーーン!

 僕の心は、暖かいピンク色の光に包まれた。
そこにいたのは、マイエンジェル!
サクラちゃんだ!

「カスミちゃんと当番を代わってあげたんだね。マサムネ君は、優しいもんね。」

パンパカパーーーン!

僕の頭の中で、天使が くす玉を割った。
目の前が、トロピカルフェスティバルに変わったのだ!

僕には見えるよ!
結婚して旅行に行った僕達は、スウィートな南の国で 一緒にフルーツポンチを食べるんだ!

「サクラちゃんにも、フルーツポンチを配るからね!」

僕はニッコリ笑って、未来のお嫁さんに伝えた。

「うん!お店やさんごっこみたいで、面白そう!幼稚園では、 よく遊んだよね。フフフフフ。」

「うん!そうだね!」

僕は、2人で おままごとをした時の事を思い出した。

「マサムネお父さん!いってらっしゃい。」

「いってきます!サクラお母さん!
今日は、ケーキを買って帰るね!」

「えっ?ケーキ?
じゃあ、私はケーキ屋さんもやるね!」

 そう言って、サクラちゃんは楽しそうにオモチャのケーキを箱に入れた。

「ウフフフ!はい、ケーキだよ!マサムネくん!」
「アハハハハハ~!サクラちゃん、ありがと~う!」

よく笑うサクラちゃんといると、僕もつられて笑っちゃうんだよね。

「マサムネ君は、フルーツポンチのお祭りに出るんだね。フフフ。」

「うん!お祭りなら、楽しまないとね!」

サクラちゃんの前では、そんな事を言ってしまう。

君の為なら フルポンフェスだって、何だってやれるよ!

な~んて事を、言っちゃおうかな~?
さすがに、かっこつけすぎかな~?

そう思って サクラちゃんを見つめた。
この熱い想いを受け止めて欲しい!

「フルーツポコチ~ン!」

 僕達の間に割り込んできたのは、コウ君だ。
また腰を振って踊り出した。

「あはははは!」

サクラちゃんは、お腹を抱えて笑った。

コウ君は、いつもこうやって みんなを笑わせるのが大好きなんだ。

「あはははは!」

ついに僕まで、笑っちゃったよ。

コウ君は、何度も踊って見せた。

「フルーツポンチン!ポンチンチ~ン♪」

僕達は みんなで、ずっと笑い続けた。


「ただいま!」

家では、お母さんが待っていた。

「一年生は、まだ学校に慣れなくて大変よね。ゆっくりしなさい。」

そう言って、お母さんはおやつを出して僕を のんびりさせてくれる。

帰ってからの この時間が好き。
今日も1日、学校を頑張った。
そう思って、僕は少しだけ横になる。


バタン!

「ただいま!」

明日の準備を終わらせて遊んでいたら、お父さんが帰ってきた。

「マサムネ!ご飯ができたわよ!手を洗って・・」
「わかってる!洗ってくるよ!」

「お父さんも、洗いなさい!
顔も汚いわよ!」

「はい・・。」

お父さんと一緒に手を洗って、僕は席についた。するとお母さんは、時計に指を向けた。

「給食を食べる時間は20分よ。今から20分経つと何時か わかる?」

「7時25分!」

「そうね。マサムネは、算数が得意ね。」

「うん!くもんの先生が教えてくれた!」

「じゃあ、時間を気にして食べましょう。いただきます!」

「いただきます!」

僕は、お箸を持って大好きなハンバーグから食べた。でも、その横にある丸く切ったニンジンは食べたくない。
お母さんは、それに気付いている。

「マサムネ!そのニンジンは、砂糖で甘くしたの。食べてみて。」

「えっ?ニンジンが甘いの?」

僕は そう言われたけど食べたくないから、ハンバーグばかり口に入れた。

「食べてみてよ。嫌いなピーマンは、味を付けたら食べれたでしょ。
だから、ニンジンも調理方法を変えたら食べられるかなって思って作ったの。」

「ふーん・・。」

仕方なく、1つ取って口に入れた。

「あっ!本当だ!ニンジンが甘い!」

「でしょう!どう?食べられそう?」

「うん。いつものニンジンよりは食べられる。でも、食べなくていいなら食べたくない。」

僕がハッキリ言い返すと、お母さんは 残念そうな顔を見せた。

「そう。でも、食べれるだけ食べて。ニンジンは栄養があるのよ。」

「うん・・。」

僕が嫌そうな顔をした事に、お父さんも気付いた。

「まぁ、いいじゃない!嫌いなものを無理に食べるのって、大人でも辛いじゃない。」

お父さんが そう言ったから、お母さんのガチコンスイッチが押されてしまった。

「家でも できる事はしていかないと!
親が好き嫌いを許せば、学校でも好きな物しか食べなくなるでしょ!」

「あぁ・・。まぁ、そうだね。」

そう答えたお父さんの顔を見て、僕は思った。
また、今日もお父さんの負けだ。

「なぁ、マサムネ!学校では、給食を残しちゃダメって言われているの?」

お父さんは、僕の方へ逃げてきた。

「ううん。嫌いなものでも一口食べて欲しいけど、食べられないなら残していいって先生が言ってた。」

「そっか。そうだよな!」

お父さんは そう言って笑ったけど、お母さんは「じゃあ、仕方ないわね。」で終わる人じゃない。

「お父さんは、野菜が苦手だものね!
だからって、嫌いなら食べなくていいって訳じゃないのよ!」

すると お父さんは、捨てられた犬みたいに悲しそうな顔を見せた。

「俺は、給食が苦手だったからなぁ・・。」

「へぇ・・。」

僕が答えると、お母さんは困った顔でお父さんを見た。

「お父さん!学校を嫌なところみたいに言わないでよ。」

「うん。わかっているよ。
でも、学校って楽しい事もあるけど、嫌な事だってあるじゃない。」

そう言って、お父さんは僕を見つめる。

「何でも自分の好きなようにはいかないものだから、嫌な事を乗り越えて欲しい気持ちはあるよ。
嫌な事を乗り越えたら、嬉しい事がやってくる事もあるからさ。
それでも、1人で悩むのは辛いからね。乗り越えられそうにない時は、 お父さんとお母さんに相談してよ。」

「うん・・。」

僕が頷くと、お父さんは僕のお皿の上のニンジンを1つ取って食べた。

「それでもお父さんは、マサムネに色々な経験をして欲しいって思うよ。
子供の頃しか持てない特別な気持ちって、あるからね。」

「ふーん。」

すると、今度は お母さんが僕を見つめた。

「先生の言う通り、給食で嫌いな物が出ても一口食べてみなさい。
給食のご飯は、お母さんの作る味と違うから、味が違えば食べられるかもしれないわ。
その時は、必ずお母さんに教えてちょうだい。」

「うん。わかった。」

僕は そう答えて、ハンバーグとサラダを全部食べた。お母さんは時計を見る。

「あと5分よ。全部食べられそう?」

「全部は無理かな。ニンジンもあるし・・。」

「じゃあ、あと10分で食べてみなさい。ニンジンは、あと1つでも食べれるなら食べて。」

「うん・・。」

すると、お母さんは冷蔵庫を開けた。

「デザートはゼリーよ。」

「食べる!」

「ご飯を全部食べられたらね!」

そう言われたから、僕は頑張ってニンジンを1つ食べたし、スープもお米も残さず食べた。

「ニンジン以外は、全部食べられたわね。偉いじゃない。」

「うん!早く、ゼリーをちょうだい!」

「はい、どうぞ。」

僕はゼリーを受け取ると、笑顔になった。
お母さんも、一緒にゼリーを食べ始める。

「明日は、給食当番ね。頑張ってちょうだい。
小学生の時しか経験できない事って、沢山あるわ。思い出をいっぱい作ってね。」

「うん。」

僕はゼリーを口いっぱいに入れて、頷いた。

2人は、明日の給食当番を心配しているみたい。

「学校で嫌な事があったら言いなさい。」

小学校へ行く前に、2人に言われた言葉。

でも幼稚園に通っていた時には、何度もこう言われた。

「嫌な事をできない、できないと言っていたら、できるようにならないのよ。」って。

だから、僕は給食当番はやると決めた。

でも、給食当番で失敗して みんなに嫌な事を言われた時は2人に話そう。


その日の夜、僕は布団に入って、おまじないをかけた。

昭和生まれの お母さんが、よく歌う曲のおまじない。

「♪大丈夫、大丈夫だよ~。
自分に言い聞かせながら~♪」


2章★君ならできる!

戦いの日がやって来ると、僕は朝からテニスプレーヤーのように熱くなっていた。

「できる!できる!僕なら、できる~!」

登校中なのに、大きな声を上げちゃった。
すると、側にいたコウ君は 僕よりも さらに大きな声で叫んだ。

「さぁ、今日こそ打ち上げてみよう!
パッションの花火を!」

「あははは!」

コウ君が、花火みたいに両手を広げてジャンプするから、大笑いしちゃった。

すると コウ君は、着ている大きめのシャツを横に広げた。

「僕ね、気合いを入れて フルーツのシャツを着てきたよ!」

「給食当番は僕なのに、何でコウ君が気合いを入れるんだよ~!」

僕は、手でツッコミを入れた。

「だって僕ね、フルポンフェスの準備をしてきたから!」

「えっ?何それ~?」

僕達が騒いでいたら、交差点を渡ってきたテツ君と一緒になった。

「おはよう!今日は、給食当番の日だね。盛り上がっているね!」

「そりゃ、そうだよ。運動会より熱い戦いなんだよ。」

「頑張ってね!マサムネ君ならできるよ。」

「うん!」

僕はノリノリのコウ君も、応援してくれるテツ君も嬉しかった。

すると、コウ君がランドセルから魚の図鑑を取り出した。

「あのね!気合いを入れる時に、良い言葉があるんだよ。
それはね、【マグロは熱い魚だ!マグロになろうぜ!】だよ。」

そう言いながら、図鑑の中のマグロを見せてくれた。
コウ君のランドセルには、生き物図鑑しか入っていなかった。
今日から勉強が始まるのに、教科書を持たずに、図鑑だけを持ってきたみたい。

「マグロって、フルーツじゃないじゃん!」
僕は、もう一度ツッコミを入れた。

「でも、マグロがいいんだよ!
マグロは、泳ぎ続けていないと生きられないから、体の温度が高いんだよ。だから、マグロは熱い魚なんだ。
今日は、マグロになろう!」

僕は思う。
コウ君って、こういう事には詳しいんだよね~。

「わかったよ!じゃあ、マグロね!
マグロは熱いぜ!マグロになろう!」

なんだかわからないけど、僕はオリンピックの選手みたいに気合いが入った。

「♪できる~できる~!僕なら、できるっ!マグロになろう!」

松岡修造様は、サバになれよ!と言っております

「あはははは!」

僕にとって、この2人は大好きな友達。
幼稚園に通っていた頃から仲良し。2人といると、いつでも元気になれる。

大丈夫!大丈夫!

家で何度もフルーツポンチを よそう練習したんだ!僕なら、できる!


3章★給食の準備

「少し早いですが、4時間目の授業はこれで終わりにします。」

先生にそう言われて、生徒は起立、礼をした。

「今日は初めての給食なので、早めに準備をします!机の上の物を全て片付けて下さい!」

そう言って、先生は壁に貼られた【給食のルール】の紙に指を向けた。

とある学校の一例です。

「先生が言った【給食の準備】を覚えているよね?
まずは、給食当番と お手伝い係から手を洗いにいきましょう!時計を よく見て行動してね!」

僕達1班の生徒は、すぐに教室を出る。
廊下に出てからも、先生の声が聞こえた。

「他の班の子は、机の向きを変えて!
自分の班だけでなく、当番の子の机も変えてあげてね!終わったら、手を洗いに行きましょう!」

僕達1班のみんなは、手を洗い終わった。
すると、後から他の班の子達もやってきた。

教室に戻ると、1班の子の机の向きは変わっていて、6つの机が1つに固められていた。
僕は机の上にランチマットを引いて、箸を置いた。

2班のお手伝い当番の子達は、先生と一緒に給食台を出している。

一班のみんなは、給食着に着替える。

「カスミさん!急ぎましょう!
置いて行かれてしまいますよ。」

三郎君が、カスミちゃんに声を掛けた。

「ちょっと待って!」

みんなより少し遅れているカスミちゃんは、慌ててランチマットを広げた。

先生は、学級会の時に言っていたんだ。

「上手くできないのと、やる気がないのは違います。
ダラダラとしている子は置いていく事もありますよ。
上手くできない子は、少しずつペースを上げましょう。
【自分は悪くない!このままで良い!】と考えずに、良くなりたいという気持ちを持って下さい。
その気持ちを見せれば、周りの子も手伝ってくれます。
少しずつでも人は変われるものです。頑張って下さい。」

慌ててやって来たカスミちゃんは、僕達と一緒になって給食着を取り出した。

「カスミちゃん、マスクは?」
「早く!帽子を、かぶって!」

アンナちゃんとアヤちゃんが、カスミちゃんの着替えを手伝った。


「はい!給食当番以外は、みんな席について~!」

他の班の子達も みんな戻ってきて、先生に声を掛けられながら席に座った。

全員が座らないと、給食当番は出発ができないんだ。

当番ではない子は、ランチマットを引いて お箸を出したら静かに待つのがルール。
本を読んだり、絵を描いて待っているのはOK!

トイレに行きたくなった子は、日直に伝える。

先生がいない間、みんなを見守るのは日直の仕事。
今日の日直は、少し気の強いマナちゃんと、あまり話さないカズ君。

お喋りしている子達を見つけると、マナちゃんの目がつり上がる。

「喋っていないで、早く座って下さい!」

まるで先生のようなマナちゃんの言葉に背中を押されて、ようやく全員が席に着いた。

マナちゃんのお父さんは、中学校の先生なんだって。

【大人になったら、お父さんみたいな先生になりたい】

そう言っていたマナちゃんは、すっかり先生の代わりになっている。


給食当番は、全員 着替えて準備ができた。
お手伝いの6年生も、4人揃って来てくれた。

「6年生のお兄さん、お姉さんに挨拶をしましょう!」

「よろしくお願いします。」

先生と一緒に、クラスの皆で挨拶をした。

6年生の中には、カスミちゃんのお姉ちゃんの、スミレ姉ちゃんが来ている。
カスミちゃんは、スミネエって呼んでいた。

「さぁ、給食当番は出発しましょう!
みんなは席に座ったまま、待っていてね!」

先生が皆に声を掛けて、僕達は6年生と一緒に一列に並んだ。今から給食センターへ向かうんだ。

「給食当番の皆さん、お願いします!」

マナちゃんが、【日直のおしごと】というノートを読みながら言った。

するとテツ君が僕に向かって、拳を上に向けた。

「頑張ってね!」
っていう事だと思う。

今は声を出してはいけないから、手で気持ちを伝えてくれたんだ。

なのに、コウ君は何にも気にせず大きな口を開けた。

「マサムネ君、マグロは自分を持ってる!
マグロになれよ!」

すると、日直のマナちゃんは鬼のように目をつり上げた。

「コウ君、何を言ってるの?静かにしてよ!」

コウ君は、まだ朝のテンションでいるので、僕はマスクの下で笑っちゃった。

4章★いざ!給食センターへ!

1年生の教室は、給食センターに近くて安心。すぐに到着できた。

「上の階のクラスには、エレベーターを使って給食を運ぶんだよ。」

先生は、学級会の時に そう言ってた。
すると、コウ君が元気良く答えた。

「大食缶に入って、エレベーターに乗ってみたい!」

エレベーターに乗りたい気持ちはわかるけど、大食缶に入りたい気持ちは わからない。

給食センターの入り口には、手を消毒をするスプレーがある。みんなで手を差し出して、バイキンをやっつけた。

中に入ると、給食を作ってくれた おばさん達がいた。あっ、そうだ。給食レディだっけ。

「給食を作ってくれて、ありがとうございます。」

僕達は、 先生と一緒に給食レディにお礼を言った。

「がんばってね!」

給食レディ達は、みんな笑顔だった。

「一年生の給食は、こっちだよ。」

先生に そう言われてついて行くと、「1年1組」と書かれた食缶を見つけた。

「牛乳は、こっちですよ。」
給食レディも、僕達に声を掛ける。

アヤちゃんとアンナちゃんは、2人で1つずつ牛乳パックの入った箱を持った。

当番を決める時に、2人は同じ当番が良いって言ったんだ。

「レディファーストで、決めさせてよ~!」

2人は、そう言ってジャンケンで決めるのを嫌がった。
【レディファースト】っていうのは、【女の子が先に決めて良い】っていう事なんだって。

(ただの、ワガママファーストじゃん・・。)
そう思ったけど、僕もヒロ君も何も言わなかった。

そしたら、三郎君が2人に答えた。

「僕のお父さんは、よく言っています。
【レディファースト】があるのなら、【オジサンファースト】もあるべきだと。
【男の人も、優先されて欲しい】という事です。」

そう言われて、レディの2人は ものすっごく嫌そうな顔をした。

「はぁ~?何それ?訳わかんない。」

「いいじゃ~ん!私達は、牛乳にさせてよ!」

三郎君の言った事は無かった事になって、2人には好きな当番にさせてあげた。

それなのに2人は、こう言ったんだ。
「重たい物を運ぶのは、男の子の仕事だよね。」

でも、給食レディは 2人とは大違い。

「プレートは重いから、私達が運ぶわ!」

そう言ってくれたんだ。
まったく!アンナちゃん達も、給食レディを見習って欲しいよ。

男の子3人はジャンケンをして、僕はおかず、三郎君とヒロ君は お椀を運ぶ当番になった。

でも、僕はカスミちゃんと当番を代わったから、カスミちゃんがおかずで、僕がデザートの当番。

「デザートの食缶は、こちらですよ。」

僕は声を掛けてくれた給食レディから、食缶を受け取ろうとした。

すると、スミネエが僕の向かい側に立って カスミちゃんをギロリと見つめたんだ。

「カスミが、フルーツポンチの当番なんでしょ?」

「えっ?」

僕は驚いたけど、スミネエはカスミちゃんだけを見ている。

カスミちゃんの顔には、【ゲェ~ッ!】って書いてある。

「違うよ。マサムネ君と、代わってもらったの。」

「大変だから代わって貰ったんでしょ?
それじゃあ、ダメだよ。嫌な事から逃げてたら、上手になれないよ。
カスミがフルーツポンチをやりな。」

「・・・。」

すると、カスミちゃんは黙っちゃった。
でも、僕にはカスミちゃんの心の声が聞こえた。

(私は、フルポンフェスは嫌なの~!やだ~!やっだーーっ!)

カスミちゃんは、黙ったままで動かない。
だから、僕は手を伸ばした。

「あの、僕はフルーツポンチを配る練習をしてきたんです!
だから、フルーツポンチをやります。」

そう言って僕は、フルーツポンチの食缶を受け取った。

すると、スミネエは笑顔になった。

「ありがとね。マサムネ君。」

スミネエは とっても優しそうな顔だったから、僕は安心した。

でも、その顔はすぐに般若に変わった。

「じゃあ、カスミはスープをやりな。私も手伝うから!
いずれは、何でもやらないといけなくなるんだよ?カスミは、甘ったれなんだから!」

僕は、ビックリした。スミネエは、先生より厳しいかもしれない。

カスミちゃんは、またまた黙っちゃった。
でも僕には、カスミちゃんの心の声が聞こえる。

(なんで、私がスープをやらないといけないの~?やっだ~!)

すると 、先生が後ろから現れた。

「カスミちゃん、スープを頑張ってみる?
おかずでも いいよ!」

カスミちゃんは、先生の顔を見つめた。
でも、その前にいるスミネエの般若の顔のが気になったみたい。

「・・スープをやります。」

「そう。じゃあ、ヒロ君は おかずに代わってもらえるかな?」

「はい!」

ヒロ君は、元気よく返事をした。

カスミちゃんは、スミネエと一緒にスープが入った大食缶を持った。

「頑張ってね、カスミちゃん!」

先生が声を掛けたけど、カスミちゃんの顔は嫌そうだった。

先生は 心配そうな顔を見せたけど、 おかずの食缶を持つと ヒロ君に渡した。

「ヒロ君も頑張ってね!」

「はい!」

食缶を受け取るヒロ君の目は笑っていた。おかずの当番になれて、嬉しいんだろうな。

全員で食缶や食器を持つと、また一列に並んだ。

僕達は出口に向かい、給食センターを出る。

「お喋りはしないで、しっかり運びましょう。
手元だけでなく周りをよく見て、落とさない様に気をつけてね!頑張って!」

先生が、僕達に声を掛ける。

大食缶を運ぶカスミちゃんは、後ろから見ても大変そう。

よく物を落とすカスミちゃんだから、心配だなぁ。

それは、スミネエも わかっていると思う。
カスミちゃんに、何度も声を掛けていた。

「しっかり持ってよ!」

「わかっているよ!」

おとなしいカスミちゃんが、今までで一番の大きな声を上げた。

そんなカスミちゃんは、ちょっと恥ずかしそう。

三郎君は、お椀の入ったケースを6年生の女の子と一緒に運んでいる。

「あっ、あの、本日は宜しくお願い致します。」

「偉いね、フフフ。」

「いっ、いえ!挨拶をするのは、当然の事ですから!お褒めのお言葉は、結構です!」

三郎君は、6年生に誉められて照れていた。
照れる時も、おじさんくさい。

ご飯の入ったケースは、6年生の男の子が2人で運んでくれた。
大きなケースを簡単に持ち上げちゃう姿は、カッコ良かった。

僕はフルーツポンチの食缶を、絶っ対に落とさないように しっかり持って運んだ。

教室に入ると、ひと安心。

用意されていた給食台に、食缶や食器を置いた。

「はぁ~。」

思わず大きな 息が出ちゃったよ!
まだドキドキは止まらない。
食缶の中身のフルーツポンチが、気になって仕方ないんだ!

「よしっ!開けるぞ!」

気合いを入れて、僕が食缶のフタを開けると、そこにはキラキラと輝く沢山のフルーツポンチが入っていた。

ビッシリ詰まって、宝石箱みたい!

「うわ~。いっぱい入ってるね!」

給食当番のみんなが集まって、フルーツポンチを見た。

「ピンクのゼリーが、入ってるよ!
丸くて可愛い!」
「本当だぁ~!」

女の子達の嬉しそうな顔を見ていたら、僕の胸のドキドキはバクバクに変わった。

フルーツポンチを食べるだけなら、いいよね!
楽しみにされると、緊張しちゃうじゃん!

「ふう~。」

僕は気持ちに負けないように、深呼吸をした。ここまできたら、もう逃げられない!頑張らなきゃ!

僕は、三郎君に向けて手を伸ばした。

「オタマを取ってくれる?」
「はい。承知しました。」
「ありがとう。」

オタマを受け取ると、早速フルーツポンチを入れてみた。
家でお父さんと練習した力を、ここで見せなくちゃ!

僕のフルポンレーダー、発信!!

ピピピピピピッ、ピッ、ピッ、ピーーッ!

【ベスト チョイス!】

よっしゃ~!これ位だね!
ミカンも杏仁豆腐も、タップリ入った!

これがベストな量だぜ!Yeah~!

「ねぇ、パイナップルが入っていないよね?
私は、パイナップルが好きなのに~。」

「えっ?」

オタマを覗き込んだアンナちゃんが、気に入らなそうな顔で話しかけてきた。

(ちょっと、ちょっと~!
ここはレストランじゃないんだよ~!)

そう、言いたかったけど我慢した。

今日の僕は、フルポンのプロフェッショナルだからね!
黙って、期待に応えようじゃないか!

よ~しっ!
もう一度、フルポンレーダー!発信せよ!

ピピピピピピッ、ピッピッピッーーー!

キッターー!これだ!
ピンクのゼリーの中に顔を出す、色とりどりのフルーツのバランスが美しい!
これぞベストな量だぜ、YEAH~!

すると、三郎君が僕を見た。

「少し多くないですか?
僕は杏仁豆腐が、あまり好きではないものですから。
あんみつのが、好みなんですよ。」

僕は、かなりイラッとした。

今は三郎君の好き嫌いなんて、どうだっていいんだよ。みんなで好きな事を言わないでよ!

僕のドキドキは、イライラに変わっていた。
すると、頭の中で給食当番の鬼が声を掛けてきたんだ。

↑給食当番の鬼の皆さん

「マサムネが配るのが下手だから、フルーツポンチが足りないぞぉ。フルポンをよこせぇ。」

「ゼリーが無くなったぞ~。マサムネのせいだぁ。みんなに嫌われるぞ!キャッキャッキャー!」

その時は、言ってやる!

「僕のせいじゃない!
みんなが嫌な事を、僕に押し付けるからいけないんだ!こんなクラスは、ヒドイよ!」

だから、嫌だったんだよーー!
フルポンフェスなんてーーー!!

「ねぇ、マサムネ君!マサムネ君っ!」

「えっ?」

僕が顔を上げると、目の前にはテツ君が立っていた。

「今日は1人休んでいるから、34人に配るんだ。僕は先生に頼んで、人数と時間を数える当番になったよ。
数を数えて黒板に書いていくから、人数が少なくなった時に声を掛けるね。」

「ええぇっ?そうなの?」

僕は、驚いた。
テツ君は、本当に手伝ってくれるんだ。給食当番じゃないのに。

♪チャラララ~ン!

その時、僕の心に太陽が出てきて鬼が消えた。僕のイライラは、優しい気持ちに包まれたんだ。

♪大丈夫♪大丈夫だよ~!

そうだよ!大丈夫だって!
ただ給食を配るだけじゃん!オタマに1杯ずつ入れて配るだけ!それだけじゃん!

「テツ君、ありがとう!」

「頑張ってね!」

テツ君は、ニッコリ笑った。
僕は、嬉しくなった。

テツ君は幼稚園に通っていた時から、優しかった。「しっかりしている子ね」って、先生達は みんな誉めていた。
僕が困っている時は、いつも助けてくれた。

「お友達に優しくしようね。」
そう言うテツ君のお母さんも、僕は大好き。

「マサムネ君、オタマを貸してくれる?」

「えっ?」

テツくんの後ろにいた先生が、僕に声を掛けた。

「あっ、はい!」

先生はオタマを受け取ると、フルーツポンチをお皿に入れた。

「フルーツポンチは、これ位入れてね。
もし足りなくなっても、先生が後で調節するから大丈夫だよ!」

その言葉を聞いて、安心した。
お手本も見せてもらえて良かった。
先生が よそったフルーツポンチは、少し少なめだった。

次に先生は、カスミちゃんの前に立ってスープを お椀に入れた。

「スープは、これ位ね。
カスミちゃんは、スープを配るんだね。頑張って!」

そう言ってオタマをカスミちゃんに返すと、先生は眼鏡を光らせた。

「よし!全員、準備はできたね。
みんなで1つのチームだよ!頑張りましょう!」

すると、先生は僕達の前に背中を向けて腰に手を当てた。
そして、小さな声で「よしっ!」と言った。
先生は、勢い良く振り返る。

「給食当番達よ!自信を持ちたまえ!
君達なら、でっ・きっ・るぅーーー!」

作者より★こんなんばっかでスイマセン。

サッサと配ろうと思っていると、カスミちゃんが僕を見た。

「マサムネ君、頑張ろうね。」

「マサムネ君なら、大丈夫だよ。」

ヒロ君まで、僕に声を掛けてくれた。

「マサムネ君!試練は、乗り越えられる人にしか与えられません!共に頑張りましょう!」

三郎君の励ましは、仙人のお告げみたいだった。

「頑張ってね!」

6年生も給食レディも、笑顔を向けてくれた。

「こっちが終わったら、手伝うね!」

アンナちゃんとアヤちゃんも、牛乳を配りながら僕達の事を気にかけてくれている。

なんだよ~!
みんなに そんな事を言われたら、気合いが入っちゃうじゃんかっ!

この当番は、僕がやるって言ったんだ!
頑張らなきゃ!

こっちを見ているクラスの皆は、フルーツポンチを楽しみにしているんだから!

大丈夫だよ!頑張れ、自分!

コウ君は「マグロになろう!」って気合いの言葉をくれたけど、僕は他にも、気合いを入れる とっておきの言葉があるんだ。

僕は今、フルーツポンチだけに集中する!

いくぞ!
「フルーツポンチ 全集中!」

どんと来い!フルポンフェス!

さぁ、皆に配りきれるか、フルーツポンチ!

★次回へ続く★

給食当番のやり方は、先生によって異なるものと思います。
当日に生徒の気持ちで当番が代わるのは、良くない事かもしれません。
このお話は、私なりに、こんな生徒がいて、先生は どう考えるかを書いたお話です。

給食当番のやり方は、学校の先生のインタビュー記事や、学校のブログを参考にしました。

その際に、手を洗うより先に給食着を着る、ランチマットを引くとあったのですが、私は手洗いが先ではないかと思ったので、自分の考えを反映させました。

給食の準備中に絵を描いて待つのをOKとするのも、手が汚れるのではないかと思うので悩みました。
また、箸の持参は学校によって異なり、箸が用意される学校もあります。私の学校生活では、箸を持参しました。

学校での過ごし方は、先生と生徒が経験を積んで、一緒に考えられたら良いと思うのですが、保護者の意見を無視する訳にもいかないので、教師というのは とても大変な仕事と思います。
食育や生活指導は、先生以外の専門家に任せられたら良い気もします。

作中のお父さんとお母さんの言葉も、悩みました。

学校給食の記事について読んだ時、食育は学校だけでなく家でのサポートが大事というコメントが多く共感しました。

食べ物の好き嫌いを無くす事、時間内に食べる事、みんなと同じように行動するという事は、先生だけのサポートで改善できないと私は思います。

なので、物語の中に「家庭でできる事をする」という母親の姿を描きました。

教育には、一つの正解がないので難しく感じます。私の人生経験で思う事は、【何もしない事】が一番良くないと思います。

子供の頃しか教わらない事や できない事があり、嫌だった事から学ぶ事もあります。

だから、何か経験できる時には、心に負担にならない範囲で参加して欲しいと思います。

その時に、親だけは応援して欲しいという気持ちを込めました。

全部で5話です。お付き合い頂けたら、幸いです。宜しくお願いします。

次の話↓


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集