短編 | 郡山のラブホにて
(1) 突然の休暇
「君はずっと休まずに働いてきたね。どうかな、急なことだけれども、明日から1週間休暇をとってみては」
東日本大震災から数年経ったある夏の日、上司は休暇を与えてくださった。それほど暇なわけではなかったが、ひとつ大きなプロジェクトを無事終えたばかりだった。
真夏の暑さに辟易していたから、私は素直に休暇をとることにした。
せっかく1週間も休みをもらえるのだから、たまには少し遠出してみようと思い、当時に付き合っていた陽子に電話してみた。
「へぇ、明日から1週間も。私も今暇と言えば暇だから、喜んで旅行に付き合うよ」
陽子は、アパレルのテナントで派遣社員として働いていたが、別のテナントが入ることになって、先月解雇されたばかりだった。
「急に決まった休みだから、ちゃんと行き先の計画を立てたわけじゃないけど、福島方面に行ってみたいと思うんだ。震災があってから、東北へは遊びに行ってなかったからね」
(2) 白河ハリストスへ
「昭夫さん、おはよう。とりあえず、二三泊分の下着と服は用意してきました」
「そうだね、細かなものは道すがら買えばいいからね」
陽子は大幅に遅刻してきた。いつものことだ。服のコーディネートとか化粧に時間がかかってしまうのだ。
とにかく、日が暮れるまでには福島にたどり着きたい。私は陽子を車に乗せて、高速で北を目指した。日はすでに傾きかけていた。
「ああ、これかぁ。立派な教会だね」
神田のニコライ堂ほど有名ではないが、白河ハリストス教会はギリシア正教の教会である。たしかに見慣れた十字架の形とは違った。ドストエフスキーを読んで以来、一度は訪れたいと思っていた所だ。
「ふーん、普通の教会だね。とりあえず写真をとっておこうか?」
陽子にはほとんど関心がなかったようだが、久しぶりの遠征を楽しんでいるようであった。
(3) 郡山のラブホへ
白河の教会で写真を撮ったあと、南湖公園を少しブラブラしてみた。江戸幕府の三大改革のひとつ、寛政の改革を行なった松平定信が治めていた白河。ここから、日本の舵取りをすることになった人物が誕生したんだな、なんて思いを馳せてみた。しかし、辺りはすでに暗くなりかけていた。
「今日は郡山辺りで一泊しようか?」
宿泊の予約などしていないから、レストランで食事をしたあと、飲み物や明日の朝食を買ってから、郡山でラブホを探した。
ラッキーなことに、高速道路を下りるとそこはラブホ街だった。
「ここだけ見ると、郡山は大都会だね」
陽子は無邪気に言った。
「そういう言い方は、郡山の人には失礼じゃないかな?」
「でも、これだけ大きなラブホが並んでいると壮観だよね」
「まぁね」
私たちは泊まるラブホを決めた。そしてしばらくくつろいだ。
「明日はどこに行こうか?とりあえず五色沼へ行こうか?塔のへつりも行けたら行ってみようか?」
「そうだね。景色がきれいな所ならどこでもいいよ」
(4) よろぴくね | YOROPIKU-NE
とりとめない話を楽しんで、そろそろ寝ようかと思い始めたところ、少し喉が渇いた。飲み物は買ってあったが、明日の分にとっておこうと思った。
「そういえば、ミネラルウォーターのサーバが部屋の外にあったよね。あたし、とりに行ってくるね」
こういう時、陽子はとても気のきく女だ。言うや否や、さっそく水をもらいにいった。
しばらくして、陽子が興奮気味に戻ってきた。
「今さぁ、あっちの部屋で、女の子が『はじめまして、今日は、よ・ろ・ぴ・く・ね』って言って、男の人の部屋に入って行ったんだけど。なんなんだろうね?」
「あぁ、それはたぶんデリバリーだろうね。ラブホと業者が提携しているのかもしれない」
「え?でも、どう見てもピザ屋じゃなかったけど」
「女の子自体のデリバリーだね。ラブホでするようなことを、彼女のいない男が頼むというか。。。」
「ホテルに泊まった上に、女の子まで買うの?もったいないよね」
「もったいないって言っても、彼女のいない人もいるわけで」
「そっか~。薄化粧の割には、少しケバいかな、とは思ったんだけど」
(5) 翌朝
私たちの1日目の夜はとても長いものになった。一応目覚ましはセットしたが、二人とも熟睡してしまった。
「あっ、もうこんな時間だ」
「陽子!起きられる?」
バスローブから胸をのぞかせながら、陽子が「んー」と伸びをした。
「もう朝か~。昭夫さんが先にシャワー浴びてきて」
私が先に朝風呂に入ることになった。寝癖を直すくらいのカラスの行水に過ぎなかったが。。。
「陽子、出たよ。どうぞ。10時くらいまでに出掛けられたらいいんだけど」
「それなら余裕、余裕」
陽子が風呂に入った。なんだかんだで、10時ギリギリまで陽子は出てこなかった。
陽子はドライアーで急いで髪を乾かす。前日にコーディネートしておいた服装もバッチリ。
「じゃあ、出掛けようか?ちょうど10時に間に合ったね」と私は言った。
「待って!まだメイクしてない。軽くメイクさせてくれる?」
「あぁ、もちろん。ごゆっくり」
私は手持ちぶさただったから、陽子のメイクする様子をずっと眺めていた。
「だいぶ、念入りにメイクするんだね」
「そんなことないわ。必要最低限のメイクしてるだけよ」
結局私たちがラブホを出たとき、時計は11時を回っていた。
おしまい
120%フィクションです😄。
女性のメイクは大変ですよね😊。
💡福島はいいところですね💝。
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします