連載小説(37)漂着ちゃん
私は今までの出来事を振り返ってみて、エヴァがAIの頭脳を持っているのではないかと邪推した。そう考えればこれまでに起こったことはすべて説明がつくではないか。
自殺するために雪山をさまよっていた私の前にナオミを流したのはエヴァだったとしたら?
所長というAIの存在を作り出したのは、未来の私ではなく、エヴァだったとしたら?
私は所長にエヴァが従っていると考えていたが、エヴァが所長を作り出したのだと考えれば、所長を止めたり再稼働することは容易に出来て当然なのではないか?
本当はAge3500という世界が単なるエヴァのでっち上げだとしたら?
今までに起こった出来事は、すべてエヴァを中心に起こっている。この町にやってきて以来、私はずっとエヴァの言う通りに踊らされていたに過ぎないのではないだろうか?
考えれば考えるほど私は、エヴァこそがこの町を支配しているに違いないと確信するようになった。
「どうしたの?あなた。険しい顔をして。何か嫌なことを思い出しましたか?」
「いや、ちょっと考え事をしていたんだ。ナオミはエヴァさんがこの町の支配者だと思ったことはあるか?」
さっきまで微笑んでいたナオミから笑顔が消えた。
「そういう言い方には、トゲがありますね。私はエヴァさんのことを尊敬しています。確かにエヴァさんには、カリスマ性がありますが『支配者』という言い方は好きではありません」
「支配者という言い方はともかく、ナオミはエヴァさんにカリスマ性を感じることは否定しないんだね」
「カリスマでも何でも良いのですが、エヴァさんには人を強烈に引き付ける何かがありますね。カリスマという言葉に語弊があるようでしたら、魅力と言ってもいいです」
それから、とくに何事も起こらず、気がつけば更に一年が過ぎようとしていた。何度か地下室の所長がどうなっているのを確かめようと思ったが、部屋の外にはずっと護衛官が見張っていて身動きがとれなかった。収容所の外の様子は、とくに変わっていないようだが、エヴァは今頃どうしているのだろうか?
いたずらに時が過ぎていった。
そんなある日、「所長がお呼びです」と護衛官から呼び出しがあった。
「こちらの日時に、地下室の所長のもとへ出頭してください」
…つづく
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