短編小説 | 涙と微笑
振り返るといつも僕に微笑みかけていた君が、悲しい表情で僕を見つめるようになった。
「仕方なかったんだよ。あんなことがあったら、あたしの元から離れていくと思ってた。だけどあなたは私の元から離れていくことはなかった。もう取り返しがつかないことは分かってる。あなたを一方的に責めたくなんかない、だけど」
何度同じ言葉を聞いたことだろう。あの時、僕は自分の頭で考えることを拒否していた。そして、「君の判断に任せるよ」と言った。本当は手離すことを心の底では望んでいたくせに。いざというときに本心を打ち明けられなかった僕は重罪なのだ。
「もう終わったことなんだけどね。あの日私が手離したとき、今日という日が来ることを知っていたなら、きっと私は手離すことはなかった」
どんなことがあっても、僕は君と別れることなんて考えたことはない。それほど僕は卑怯な奴なんだ。君がこうして悲しい表情を浮かべながらも僕に語りかけていることを、心の中のどこかで楽しんでいるのだから。
本当は僕といっしょにいることで、君があの日の出来事を繰り返し思い出してしまうのならば、君と別れることが最善の選択だと知っているのに、ズルズルと君に会いつづけているのだから。
「あたしね、どんなにつらくても、3人で暮らすという選択をしたほうが良かったと思っているの。だから、戻ってきてくれないかなぁって。だってあなたはこんなに優しいんだから」
優しくなんかないんだよ。卑怯なだけなんだよ。もう君の心も体も傷つけてしまったのだから。
出会った頃は、遠い遠い未来までずっと、君といっしょにいることが幸せなんだと思ってた。だけど、君の幸せを本当に願うのならば、君と別れるということが最善の選択だということを知っている。なのに、まだサヨナラを伝えることができない。これは愛なんかじゃない。
「あのね、僕たちはもう…」
「ねぇ、今日はどこに食べに行こうか。まだ行ったことがない気になるお店があるんどけど」
微笑と涙を浮かべながら、彼女は僕の言葉をさえぎった。
こちらの曲(↓)を聴きながら書いてみました。
以前書いた短編小説「1年後」の続編にあたる作品です。もしかしたら霊感が強いのかもしれません。非科学的なことは言いたくないのですが。
「1年後」という小説は、たまたま水子供養の神社を訪れたときに、ぞくぞくっとしながら閃いた作品です。何も知らずに訪れた神社でしたが、家に帰ってその神社のことを調べたとき、「まさかね」なんて思いました。実話かどうなのか、私にもわかりません。
藤井フミヤ / TRUE LOVE
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