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一語の宇宙 | creole

 地図帳を見ていると、その国や地域で話されている主要な言語が掲載されていることがあります。
 英語、フランス語、スペイン語などの大言語とともに「クレオール語」が目立ちます。英語よりも広範囲に話されているような印象を持つと思います。
 「クレオール語とは何か?」という説明がないと、英語やスペイン語のような大言語だと錯覚してしまうかもしれません。

 言語学辞典では、クレオールは以下のように説明されています。


creole, creolization 
(クレオール、クレオール化)
異なる言語を持つ集団が意思伝達のために用いた混成言語(ピジン)が発達し母語となったもの、あるいはその過程をいう。クレオールは、ピジンに比べ構文が複雑で語彙が豊富である。一般に英語、フランス語などの大言語を基盤とする。近年では、ピジンからの発展ではないクレオールも発見されている(Field(2011))。

「英語学・言語学用語辞典」
開拓社、2015, pp276-277より

 (多少正確さを犠牲にして)簡単に言い直すと次のようなイメージです。

 共通語を持たない者同士が意思を伝えるとしたら、身振り手振りを交えながら、相手の言語で知っている言葉を自分の母語と交えながら話すことになるでしょう。
 そのようなその場限りに生まれるような言語を「ピジン」と言います。
 しかし、そのような「ピジン」も、次世代、次々世代と使われていくうちに語彙が豊富になり、それが母語になる世代が生まれてきます。その頃になると、最初は「ピジン」に過ぎなかった言語も、次第に語彙が増えてきて、構文も複雑化してきます。そのような言語を「クレオール」と言います。

 フランス語がベースになった「ハイチ・クレオール」や、英語がベースになった「ジャマイカ・クレオール」などが有名です。そして、クレオールがその国の公用語の地位を占めている場合もあります。


 「ピジン」はおおむね1世代限りのもので、3世代、4世代と引き継がれると「クレオール語」と呼ばれることが多いのですが、なかなか定義が難しいものです。

 シーザーがルビコンを渡った頃、英語と呼ばれる言語はありませんでした。ラテン語(印欧語)をベースに「クレオール化」したものが英語でしょうね。しかし、英語のことは普通「クレオール」とは言いません。

 英語史をひもとくと、「中英語クレオール仮説」というものが出てきます。
 1066年の「ノルマン・コンクエスト」を境目にして、「中期英語」と「現代英語」に分ける場合が多いのですが、英語がクレオールか否かを決することはなかなか難しいものです。

 確かに「ノルマン・コンクエスト」が英語に与えた影響は大きかったと思いますが、内生的な大きな変化によるものか、もっぱら外生的なショックによるものなのかに関しては、諸説あります。

 言語の分類というものは、「なんとなく」は説明できますが、理路整然と定義することは難しいものですね。
 標準語と方言との分類も一筋縄ではいきません。誰でもなんとなく分かりますが、数学のようなきちんとした定義は難しい。


「一語の宇宙」では、英単語を1つ取り上げてエッセイを書きます。
こちらのマガジン(↓)に収録していきます。


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