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短編 | 投票用紙

 選挙は、通知ハガキをもって行かなくても投票できるという話だから、私は一糸纏わぬ姿のままで投票所へ向かった。

 家にいる時も、仕事に行くときも、私は服を着ることはない。もう中学生の頃からずっと裸族的な生活をしている。裸の状態でいることが当たり前であり、一番楽なのだ。

 投票所へは朝早く行った。投票所へ一番乗りした有権者には、実は「特権」がある。いわゆる「ゼロ投票確認」と呼ばれるものである。

「ナイスさん、ナイス、ムネコさ~ん」

「はい、奈井須宗子です」

「奈井須さんは、この投票所の初めての投票者になります。ゼロ投票確認をよろしくお願いいたします」

 選挙管理委員さんが私に投票箱の中を見せた。

「何も入っていませんね」

「はい、何も入っていません」

「では、これから投票箱を施錠します。奈井須さん、こちらに署名してください」

 私は渡された紙に「奈井須宗子」と記した。

「では、こちらは小選挙区の投票用紙になります。候補者名をひとりお書きください」

 鉛筆をもち、「さて、誰にしようか?」とアレコレ考え始めた。
 とりあえず投票しなくては、という気持ちでここにやってきた。誰に投票しようかなんて、全く考えていなかった。

 私は徐々に緊張感に襲われた。
 誰に投票すればいいのだろう?

 そのとき、私は突然、激しい尿意に襲われた。

「まずい、漏れそうだ」

 我慢した。しかし、私はいま、投票しなければならない。

「あぁ、やっぱダメだ。漏れる」

 ポタ…

 明らかに一滴、私の小水が床に落ちた。思わず私は、股間に投票用紙をあててしまった。

 もう誰に投票するかなんて考えていられない。
 私は何も書かず、私の尿が数滴ついた投票用紙を投票箱に入れて、トイレに直行しようとした。

「奈井須さん、奈井須宗子さん、こちらは比例代表の投票用紙ですが…」

 私の股間はもうすでに決壊寸前だった。比例も反比例も知るもんか!

「棄権します!」

 思わず力が入った。
 そのとき、やっとのことでせき止めていた私のダムは一気に決壊した。床がビショビショになった。 

 



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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします