短編小説 | 普通のオバサンになるのは難しいわね。
(1) おばさんの一人言
あたしは今年で62歳になりました。奈良や大阪の近くに住んでいますので、史跡を知人と巡ったりして楽しむのを趣味にしています。
司馬遼太郎のエッセイが大好きで、歴史についてのエッセイをまとめた電子書籍を何冊か出版しています。
ずっと歴史とはほとんど無縁の仕事をしてまいりましたが、おかげさまで、SNS上ではエッセイストという肩書きを使わせていただいております。記事では主に、歴史散策のことや大河ドラマの感想を書いております。
歴史なんていう、あまり人気のないの記事を書いておりますが、ひとたび私が記事を書けば、たくさんのコメントを頂けることがあたしの励みになっております。
「あたしはただのおばちゃんです」と人前では一応言っておりますが、夫婦共働きで息子を育ててきたことには、ちょっとした自負を持っております。
(2) おばさんの息子の一人言
僕は数年前、大学を卒業して、IT関連の企業に勤めています。勤めていると言っても、リモートですからギリギリまで寝ています。
母はいつまで経っても口うるさく、もっと早く起きろとかウザイです。ちゃんと5分前には起きてるんですけどね。
母ですか?家事はやっていますが、別に仕事を持っているわけではないので、自由な時間は多いですね。
洗濯、スーパーへの買い物、食事の準備はそれなりにやっていますが、他の主婦とやってることは大差ないですね。どちらかいうと、趣味で忙しいといった感じですね。
暇があれば、どこかブラブラと史跡巡りをしたり、二、三日に一度程度、SNSに記事やら何か投稿しています。
歴史関係が多いみたいですけど、頭がかたく折れるということを知らない石頭だから、イライラしてる時が多いです。
ネットの仲間からは「あなたはブレない」「芯がある」と褒められていると自慢していますが、僕から言わせれば「頑固で、融通がきかない、柔軟性がない、多様性を認めない」という意味なんだと思います。自分に心地よいコメントをしてくれる人の記事しか読んでいないみたいですから、仕方ないですね。ネットの身内同士の「自己強化作用」に毒されているようです。
母は基本的に自分に都合のよい解釈をする人ですから、仕方ありません。そういう意味では素直なんでしょうね。他人の記事にトンチンカンなコメントを書いて、クソリプもらって「もの申す!」とか「気持ちのいい人だけの交流だけでいい!」とか言い放って、火に油を注いでばかりのようです。いつまでも空気が読めない、あるいは空気を読もうとしないことを是としています。
すぐに「アイツは卑怯だ」とか「後ろめたいのだろう」とかホザいていますが、客観的に自分を見るということができないようです。それは母の価値観であって、まったく違う論理で動いている人がいることを認めないのは、狭量そのものというもの。
人間情念の機微を理解出来ないから、本当は歴史には不向きなのですが、母の唯一の生き甲斐を奪うことは僕の本意ではないので、沈黙を貫いています。
まあ、ネットに矛先が向いてくれれば、僕としてはガミガミ言われなくて済むから好都合なんですけどね。。。