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1/3 | ボトルレター①

 排水溝の下にペットボトルがずっとプカプカ浮いている。ゆく河の流れは絶えずして、なんていうけれど、川の流れは一様ではないらしい。
 学校からさっさと逃れたいのに、家には帰りたくはない。ボーッと川辺で過ごす時だけが素の自分になれることに気がついてから、ここに座るのが最近の日課になっていた。

 昔、いつだったか、ボトルに手紙を入れて海に放ったら、どこかの外国まで届いて返事が届いたなんて話を聞いたことがある。思いを込めた手紙が入っていたなら、あのペットボトルも下流へと流れて然るべき人のもとへ届くのだろうか?

 いや、そんなことはまずないだろうな、と思う。途中で沈んで行方不明になるか、そのまま中身など確かめられることもなく処分されるに違いない。飲みかけのお茶を飲み干して、私は学校で渡せなかった手紙を入れてみることにした。見つかったとて、どこの誰が書いたものかはわからないだろう。

 封筒から手紙を取り出した。1枚だけだから、折り畳めばなんとか中に入れられるだろう。
 三つ折りにしてあった手紙をさらに折り畳んでみた。しかし、なかなかうまく中に入らない。バラバラにちぎらないと入りそうもない。破くしかないか?

 折り畳んだ手紙をいったん広げてみた。細かく一生懸命に書いた文字が曲がっていた。両手で端と端を持ってビリッと破こうとしたが、涙が止まらなくなった。いいの、これでいいのに。でも自分が哀れになって、手が止まってしまった。

「どうしたの?そんなところで1人ぼっちで泣いて」
 振り返ると彼が立っていた。

「えっ?なんで?」
「なんでって、普通に帰り道だから。それより、手に持ってる紙はなに?」
「こ、これは…」

 渡そうとしていた相手が目の前にいるのに、私は手紙を持ったまま、一目散に彼から離れて逃げた。


…つづく



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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします