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短編小説🎯「ほくろ」③(完結編)
(1)
あの日の情事以降も、「秘書」は、何事もなかったように、いつも通りの仕事をこなしていた。
彼女が来てから、そろそろ3ヶ月になろうとしていた。
「社長、申し訳ありませんが、最初の契約通り、3ヶ月で辞めようと思います」
「なぜだい?今、君に辞められると困るのだが...」
「今までも、契約期間の延長はほとんどしたことがないのです。少し、まとまった休みをとりたい気持ちもあります」
「秘書」はあっさり会社を辞めてしまった。わたしには、積極的に彼女を引き留めることが出来なかった。
(2)
彼女が辞めてから、早くも一年が過ぎた頃、彼女からわたしに電話がかかってきた。
「社長、お久しぶりです。私ですが、わかりますか?」
「ああ、君か、久し振りだね。今までどこで過ごしてしたんだい?」
「いえ、ずっとこの街にいましたよ。訳あって、住所はかわりましたが」
彼女は話し続けた。
「近いうちに、お会いすることは可能でしょうか?」
「ああ、来週の金曜日の夜なら空いているが」
「そうですか?よかったです。私の家までお越しください」
(3)
翌週の金曜日、わたしは彼女のもとを訪れた。
「お久しぶりです、さあ、どうぞどうぞ」
部屋に入っていった。赤ん坊が寝ていた。
「驚かせてすみません。女の子が生まれました。あのときの子供です」
「えっ!?」
(4)
「なぜ、わたしに知らせなかっんだ」
わたしは思わず大きな声を出してしまった。
「私がお腹に赤ちゃんがいると言ったら、社長は産むことを許してくださいましたか?」
わたしは何も言えなかった。
そのとき、赤子が急に泣き出した。
彼女は、隠す様子もなく、わたしの目の前で授乳し始めた。
あのとき以来、再び彼女の乳房を見た。乳輪には、ほくろが見えた。
「社長、見てください。この子にも、ここにほくろがあるんですよ」
わたしは、孫であるのと同時に、自分の子でもある赤子の左胸を見た。わたしと彼女と同じ左胸の乳輪に、ほくろがあった。
「社長似かしら」彼女は無邪気に微笑んだ。
おしまい
「ほくろ」完結
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