連載小説⑨漂着ちゃん
収容所53階で、ナオミと私との二人きりの生活が始まって1ヶ月が過ぎた。最初はお互いになにを言っているのか分からなかったが、共同生活を始めて1週間が過ぎた頃から、必要最低限の意志疎通はできるようになった。二人の話す言語が相互に異なるものだったなら、こんなにも早く習得することはできなかっただろう。
「先生、今日も私、かわいいかな?」
ナオミは私のことを「先生」と呼ぶ。年齢が離れているし、ナオミに現代語を教える立場だから違和感を持つことはおかしい。だが、私の意識では、ナオミと私とは対等な関係だと思っている。
「あぁ、今日もかわいいよ、ナオミ」
「先生、ホントにそう思ってるよ」
「でもさ、先生は…」
「先生は?」
少し寂しげな表情をしながらナオミは言った。
「だって、先生は私のことを『かわいい、かわいい』って言ってくれるのに、手も握ってくれないし、キスもしてくれない。だから、ホントなのかなって」
「それは…そうでしょ?私はナオミを川で見つけた。恋人じゃなくて、ただの通りすがりなのだから」
「先生、ひどいよ。たしかに出会いの発端はそうだったかもしれない。だけど、こうして1つ屋根の下に過ごすようになったのに、『ただの通りすがり』だなんて」
「ナオミ、言い方が悪かった。すまない。謝るよ」
「その言葉はホントなの?先生。だったら今夜、私に証拠を見せてくださいね」
…つづく
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