エッセイ | スポーツの記録とマインドセット
記録というものは、いつか破られるものである。不滅の記録というものはない。
しかし、記録というものは、誰かがその記録を破るまでは「不滅の記録」であるかのように存在する。
長い間破られなかった記録がいったん破られると、次々に更新されるということがある。
偉大な記録には、「呪縛」というか、無意識的にせよ、破ることが不可能だという「マインドセット」が伴うものなのかもしれない。
①競泳男子100m背泳ぎの場合
少し古い話になるが、1988年ソウルオリンピック、100m背泳ぎで鈴木大地選手が日本新記録で金メダルをとったレース。
そのときに打ち立てられた「55秒05」という記録は、2003年錦織篤選手が「54秒54」という記録を出すまで、15年間更新されることはなかった。
「バサロ泳法」の距離が制限されるというルール改正はあったが、同種目の女子選手の記録が毎年のように更新されてきたことと比べると、鈴木選手の記録は破れないという「マインドセット」が男子選手の間に広がっていたのではないか、と思う。
いったん「不滅の記録」を破る選手が現れると、次々に破る選手が出てくるのが面白い。
②陸上男子100m
陸上男子100mの日本記録の変遷も興味深い。
1998年伊東浩司選手が10秒00を出してから、桐生祥秀選手が記録を更新するまで20年近くかかっている。しかし、いったん破られたあとには、サニブラウン選手、山縣選手など、複数の選手が相次いで9秒台を記録している。
③ホームラン
①、②というようなことを考えたのは、村上宗隆選手のことが念頭にあったからだ。
55本という記録は、王貞治さんという偉大な選手がうちたてたものだ。55本で足踏みするというのは、やはりマインドセットがあるのではないか、と。
野球の場合は、水泳や陸上と異なり、タイムを競うものではないし、相手投手が敬遠したりすることもあるから、単純には比較できないが、心理的に記録達成を阻んでいるものがあるのかもしれない。
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