短編小説 | いいのよ、別に | 執念第一
(1)
「そう、じゃあ今度会うのは二ヶ月後ね」
由美子と今年中にもう一度だけ会う約束をした。彼女と会うのは、それが最後になるだろう。
(2)
「ごめん、由美子。クリスマスには会えなくなった。すまない」
「いいのよ。別に。そりゃ、娘さんのほうがあなたにとっては大切でしょうから」
「いや、そういうわけでは」
「いいのよ、無理しなくても。でも、その代わりに、今年中に、なんとか会えないかしら」
彼女の目には、言葉こそやわらかだが、執念第一といった決意が感じられた。
(3)
結局私たちは、大晦日に会うことになった。妻には仕事があると嘘をついた。
「いいのよ、別に」
妻は明らかに私を疑っていた。
(4)
大晦日になった。
私が先に入浴した。そして、ベッドの上で由美子を待った。
「お待たせ」
ようやく由美子が風呂から出てきた。
そのまま、私たちはひとつになった。
「ごめん。もういきそう。そんなに激しくしたら」
お互いに、この一瞬にすべてを昇華させようとしていた。
「あ、ダメ。もういく」
「あ、あたしも」
ゴーン。
ゴーン。
その時、遠くで除夜の鐘が鳴った。
一瞬の出来事だったが、私たちは年をまたいで愛し合った。
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記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします