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言語学を学ぶ ④ |語学の達人 | 関口存男について

(1)ドイツ語の達人 関口存男

 ドイツ語の達人として知られる関口存男。初めて、関口存男という名前を知ったのは、英語学者の斎藤兆史先生の著作とロシア語専門の言語学者、黒田龍之助先生の著作であった。ドイツ語の達人なのに、他の言語を専門とする先生の著作に登場するとは。それで興味をもって、関口存男の著作を垣間見るようになった。
 この記事ではドイツ語の話はせず、語学の勉強法を中心に書くつもりである。


(2)「語学上達の10箇条」

 ヘッダーに掲げた「関口・初等ドイツ語講座」(上巻・中巻・下巻)(三修社)は、文字通り、ドイツ語の初等文法を扱った著作であるが、ところどころに「エッセイ」が盛り込まれている。これが、なかなか面白い。

 たとえば「中巻」pp161-162には、「休けい時間」コーナーで、「語学上達の10箇条」が掲載されている。

語学上達の秘訣10箇条

第1条  慣れること
第2条  慣れること
第3条  慣れること
第4条  慣れること
第5条  慣れること
第6条  慣れること
第7条  慣れること
第8条  慣れること
第9条  慣れること
第10条  慣れること

「要するに『慣れろ』ということではないか」と思っては、関口先生に叱られます。10箇条の心を次のように説明されています。

そういう誤解をされはしないかと思って実は内々心配していたのです。「要するに慣れる」なんてのじゃありませんよ。その「要するに」がはなはだいけない。要したりなどするからムチャクチャになってしまうのです。どうか要したりなどしないで下さい。要するが如きは実に寒心の至りです。決して要したりなどしてはいけません。
(中略)
各条項を順を追って実行するのです。先ず慣れる、その次には慣れる、それからまた慣れる、慣れてしまったら今度は慣れる、そうしてから後でまた慣れる、それから改めて慣れる、それからまたさらに慣れる、すると今度は慣れる、遂には断然慣れる、その上もう1つ慣れる、⎯⎯  これでおしまいです。

感想

 外国語を学んでいると、「慣れて」きますね。慣れたところで、だいたいこんなものなのだろう、という慣れ方をするとそこで終わってしまう。慣れたら、もう一段高いところで「慣れる」ことが必要ですね。イメージ的には、高い山に登るようなもの。
 五合目の空気なれたら、次は6合目、その次は7合目の「慣れる」が待っているのでしょう。


(3)単語の覚え方

 下巻の「休けい時間」(pp.99-100)より。

およそ単語を覚えるのは、たとえていえば人の名前を覚えるようなものです。
(中略)
人の名前というやつは、百も2百も並べて、さあこれを片端から覚えてしまえと言われたって、なかなか覚えるもんじゃない。
(中略)
単語集なんぞで覚えた単語は役に立たないと。
(中略)
人の名前がドイツ語の単語とすれば、本人の顔は単語の意味です。否、実際はそれよりもっとひどい。顔は、たとえ横を向こうと笑おうと、そう大して違わない場合が多いが、単語の意味というやつは非常に微妙に変化するもので、訳語などを手がかりにして覚えても、いざとなると何の役にも立たない場合が続々と起こってくる。

前掲書(下巻)
pp.99-100

 もちろん、関口先生も、基礎的な「単語集」を覚えることを否定している訳ではない。ただ、文脈を離れて単語を覚えても、単語の意味合いは微妙に変化するから、単語集だけでは、実際の場面で使いこなせないと言っているのだろう。
 では、どのようにして単語を覚えたらよいか?

 その答えは、「読む」こと。読んでいて、分からない単語に出会ったら辞書をひくこと。これに尽きる。

基礎単語のある量を意識的に、積極的に覚えるというとドイツ語学習そのものの能率の上がり方がぐっと違ってくるという話をしたわけです。

前掲書、p103

感想

 私の経験を言うと、英検などの資格試験では、「単語帳」の単語を覚えることは合格への近道である。
 しかしながら、単語帳で覚えた単語というものは、試験が過ぎれば急速に忘れていくのもまた事実である。
 単語帳で単語を覚えるよりも、文学や有名な演説を、まるごと理解しながら暗記してしまうほうが、結局は効率がよいと思う。
 試験が終わったら、自分の興味のある文学の一節を覚えたり、専門書を理解したあと、音読して丸暗記する。それに尽きるんじゃないか、と思っている。

 野口悠紀雄先生も、同じ趣旨のことをおっしゃっている。


(4) むすび

 今回の記事は、前回までとは異なる趣の記事にしてみた。
 ちなみに、関口先生はドイツ語だけにとどまらず、『冠詞』という分厚い著書も残している。一人の人が書いた量とは信じられないくらい多くの名著を残している。言語に生きた人だなぁ、と思う。


シリーズ「言語学を学ぶ」。前回までの記事はこちら(↓)。


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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします