多様性を考える | 語学について思うこと
大学の第二外国語ではドイツ語を学んだ。当時、ちょうど、いわゆる教養過程の見直しが行われていた時期だった。1つ上の先輩までは、2年間の第二外国語講義履修が必修だったが、私の時から1年間だけの履修になった。
というわけで、私が先生からドイツ語を教えていただいのは、大学1年生のときの1年間だけだ。
ドイツにとくに思い入れがあったわけではない。たしか、中国語、韓国語、ロシア語、フランス語、ドイツ語が用意されていた。
今では中国語や韓国語を学ぶ人が多いと思うが、たいていの人は、のちのち専門分野を学ぶときに、論文を読む可能性のあるフランス語かドイツ語のどちらかを選ぶのが普通だった。
私は経済学部だった。フランス語でもドイツ語でも、どちらを選んでも良かったのだが、音の響きが好きなドイツ語を選んだ。ほとんどイメージだけだった。
大学を卒業してからも、趣味として英語の学習はずっとつづけていたが、ドイツ語は学習することはまったくなかった。
論文や小説を読むだけなら、日本語と英語がわかれば、用は足りる。しかし、また再びドイツ語を学ぼうと思ったのは、ゲーテやカントを理解するには、やはり原書にあたってみたいと思ったからだ。
とくに哲学用語は、日本語で読むとかえってわかりにくいということがある。
英語と対照してみたほうがわかりやすかったりする。
たとえば、フロイトの「エス」(es)とは英語の「イット」(it) に相当する言葉だし、ハイデガーの「ダスマン」(世人、das Man)は英語の一般人称としての「ピープル」(people)や「ゼイ」(they)に相当する言葉だ。
「カナダではフランス語が話されている」は、受け身形で書けば、
French is spoken in Canada. だが、
能動態で書けば、
They speak French in Canada. である。この文の「They」に相当するドイツ語が「das Man」である。
日本語で「エス」とか「ダスマン」というより、英語と対照したほうがイメージしやすいのではないだろうか?
「エス」というのは、英語で「This is it.」(これが求めていたものだ)というときの「it」と本質的に同じだ、と説明されたほうがわかりやすい。
「悟性」(ごせい)はドイツ語の「Verstand」(フェアシュタント)の訳語だが、英語で言えば「understanding」、つまり「理解力」という意味である。日本語より格段にわかりやすいと思う。
「理性」はドイツ語で「Vernunft」(フェアヌンフト)というが、英語では「reason」という。理性とは、ある現象が起こる「理由を求める人間の性質」ということだろう。
もし、語学する目的が外国人と会話することならば、英語(あるいは中国語)を勉強すればよく、ドイツ語を学ぶ意義は乏しい。というのは、海外で活躍するドイツ人は英語が堪能であることが多いし、ドイツ語と英語は親戚関係にある言語(どちらもインド・ヨーロッパ語族の西ゲルマン語)なので、ドイツ語圏に旅行しても英語で用は足せると思われるからだ。
英語で主な文学作品や哲学書は読めるが、やはりドイツ近隣諸国の文学は、ドイツ語による翻訳のほうが充実している。英語では入手困難な書籍も、ドイツ語訳なら容易に見つかるということがある。チェコ語やデンマーク語で書かれた作品の中には、ドイツ語訳はあるが英訳はないものも多々ある。
また、シェイクスピアの原文を英語で読むときに、(現代の)ドイツ語の人称変化を知っていれば読みやすい。
「語学力」というと英語が話せることだと思っている人が多い。しかし、英語は良くも悪くも「世界語」だから、必ずしもイギリスやアメリカという国と結びつけて考えない傾向がある。
それに比べると、ドイツ語を学習すればドイツという国を中心に物事を考えることもできる。
英語以外の言語を学ぶと、その言語が使われている国を思い浮かべるし、その国を心の底から憎むということはない。何らかの愛着も生まれる。
何語を学んでもいいと思う。たまには三日坊主でも一日坊主でもよいから、英語以外の言語に触れると御利益はある。
少なくても、ちょっとでもかじっておけば、見知らぬ外国人に会ったとき、ドイツ語なのかロシア語なのかフランス語を話しているのか?、ということはわかる。その差は大きいのではないか?
まあ、別に何も御利益がなくても、語学は楽しいものです。
もし、ここまで読んでくださった方の中に、英語以外の外国語を学んでいる方がいらっしゃったら、その言語に関する「お国自慢」の話を聞いてみたいです。
企画ではありませんが、この記事を埋め込んでいただいたら、読みに参ります😃。英語以外の外国語って、勉強しようと思ってもあまり参考書がなかったりします。そういう言語をどのようにして学んだのか、というお話を聞いてみたいと思っています。辞書すらない、という言語もありますしね😃。
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記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします