光のページェント
冬の色。その日は白から始まった。粉雪が舞って、辺りは薄暗い白で覆われていた。
大学院2年目、クリスマスに近づいた頃のある日、買い物から帰り、夕飯の準備でもしようと思っていたとき、電話が鳴った。
「もしもし、高原くん?」
「もしかして、春子さん?」
「今、仙台に来てるんだけど」
「会える?」
「高原くんが暇だったら、だけど」
すぐに僕は「今すぐ行く」と答えた。仙台駅の政宗像の前で、春子さんに会うことになった。
アパートのある川内から仙台駅まではかなり遠く感じた。寒かったが、駅に着いて春子さんの姿を見たとき、一瞬寒さを忘れた。
「お久しぶりですね、元気そうですね」
「お陰様で。今日は母と一緒に日帰りで仙台に来たの」
「そうだったんですか。お母様は?」
「7時まで別行動」
「それなら、3時間くらいお話できるってことでしょうか?」
「うん。一緒にどこかで」
突然のデートに僕の頭は半ば真っ白。アーケード街まで歩いて行って、イタリアンの店に入った。
「高原くんって、変わってないよね。せっかく仙台に来た人とイタリアンなんてさ」
「春子さんがどこでもいいっておっしゃたったじゃないですか。どこがいいですか?って聞きましたよね?」
「お手頃な牛タンの店でも知ってるのかと思った」
「いや、牛タンのお店は、どこでもそこそこしますよ。知ってても学生ですしね。あんまり高いお店には連れていけません」
「あら、社会人の私がおごってやろうと思っていたのに」
「それを先におっしゃってくれれば」
「言ってくれれば?」
「やっぱりここに来たと思います」
「昔と同じだね。マイペースで、そういうのいいね」
他愛ない会話ばかりだった。高校卒業の時に先輩と別れていて以来の再会なのに、その頃と変わらない。どうでもいい話ばかり。
「こんなんでいいんですか?観光にいらっしゃったんでしょ?僕なんかとおしゃべりしてて」
「いいんだって。それよりさぁ、定禅寺通りってどこ?」
「すぐ近くですけど」
クリスロードを一緒に歩いた。春子さんが僕の左手を握った。
「いいよね。少しの間だけ」
「あ、すごい。。。すごいね。ここかぁ、きれいだなぁ」
「まぁ、きれいはきれいですけど。これだけを見にわざわざ仙台に?僕は昨日もここを通ったから、さほど感動はありませんが」
「だから~、そういうところだって。高原くんの悪いところは。初めて見た時のように『あぁ、きれいですね』だけでいいんだって」
光のページェントが春子さんの横顔を照らした。僕は照れくさかった。キラキラ黄金に輝く中で、だからあの時もこうなったんだな、と思った。
「ああ、もう7時10分前。そろそろ行かなきゃ」
「じゃあ、またいつか。春子さん」
春子さんが僕の左手を力なく離した。
「じゃあ、さようなら。今日はありがとう」
「今日はお会いできて良かったです」
これが春子さんとの最後の出会いになった。
(おしまい)
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