連載小説(39)漂着ちゃん
地下室の扉を開けた瞬間に私の目に飛び込んできたのは、小さなベッドで眠っている赤ちゃんだった。これはいったいどういうことだ?!
しばらく呆然と立ち尽くしていると、エヴァが目の前に現れた。
「お久しぶりですね。ようこそお越しくださいました」
私は言葉が出てこなかった。
「驚きましたか?この子は『イサク』と私が名前をつけました。男の子です。この時、あなたと結ばれた時に出来た子どもです」
私の子ども?
私は頭の中が真っ白になった。
「そんなに驚くことでしょうか?あなたと私の間には、すでにマリアがいるではありませんか?あなたと私との間に、2番目の子どもが出来ることは、なんら不思議なことではありません。むしろ当然の成り行きです。あの日私たちは、深く愛し合ったのですから」
エヴァに新しい子どもが出来る可能性を私はまったく想定していなかった。それよりも、私が今日ここに来たのは…
「今日あなたがここに来たのは、この町を支配しているが、私なのか所長なのかということですよね。それはあなたにとって大切なことかもしれません。しかし、私にとって大事なのは、あなたが父親としてイサクに愛情を持つことが出来るかどうかです。とりあえず、イサクを抱っこしてみて頂けませんか?あなたの知りたいお話は、そのあとにしましょう」
エヴァはベッドに眠るイサクをそっと抱えると、私の胸元へイサクを抱かせた。
「かわいいでしょう。この子はきっとこの町の、次世代のアダムになることでしょう」
しかし、エヴァがささやくように言ったこの言葉に私は冷や汗を垂らした。
「ヨブはどうするつもりだ!」
思わず私は声を荒げてしまった。
「怒鳴らないでください。おとなげないですよ。ヨブくんはマリアと結婚することになりますね。前に私が言ったことと矛盾しません。イサクの将来の結婚相手なら、そのうち、この町のあの川に流れてくることでしょう。新しい『漂着ちゃん』が来るのを待ちましょう」
私は、思わぬ展開についていくのがやっとだった。胸元では、私たちの声に起きてしまったのか、急にイサクが泣き出した。
「あら、もっとお父さんは優しく我が子を抱いてくださると思っていたのに」
エヴァは私の手からイサクを奪いとりながら、悪態をついた。
「すみませんでした。ところでそろそろ所長とあなた自身のことについて私に教えて頂けませんか?この町を支配していたのは、最初からあなただったのでしょう、エヴァさん?」
エヴァは私の顔を見ながら、嘲笑うかのように言った。
「私がこの町の支配者だとして、何かあなたにとって不都合なことがありますか?あなたは、女王である私の配偶者なのですよ」
「配偶者?、違う、私の配偶者はナオミだ。あなたではない!」
「本気でそんなことをおっしゃっているのですか?ナオミさんは、私の第二の子宮に過ぎません!!」
こんな激しい剣幕で話すエヴァを、私は初めて目撃した。
「ナオミがエヴァさん、あなたの第二の子宮に過ぎないなんて、言葉が過ぎませんか?正気ですか?」
私のこの言葉が火に油を注ぐ結果になるのは、火を見るより明らかだった。
…つづく
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