短編 | 愛なんて...[逆噴射小説大賞2024応募]
「ご主人様はお元気ですか?」
近所の若奥様に何気なしに聞いてみた。今まで、ご主人様とはゴミ捨て場でちょくちょく出会っていたが、ここ1ヶ月の間、お見かけしなかったからだ。
「はい、元気ですよ。長期の出張に行っておりまして。しばらく帰ってこないのです」
「左様ですか。最近お見かけしていないと」
お寂しいでしょう、と尋ねようとしたが、差し出がましいと思われて言葉を呑んだ。
そのままお互いに会釈して別れたが、ふと、奇妙な違和感をもった。
確か、若奥様のご主人様は、ここから近くの工場に勤めていたはずだ。1ヶ月以上におよぶ出張なんてあるんだろうか?
まぁ、あり得ないことではないが。
それから1週間ほど経った頃、若奥様の自宅前にパトカーが止まっていた。私は直感した。ご主人様がなんらかの事件に巻き込まれたのだろうと。
「奥さま、ご主人様の会社から警察に連絡がありましてね。無断欠勤が続いていると。こちらにも何度も電話しているのに、返事がないって。奥様は捜索願いも出していませんが、ご主人様の居場所をご存知ですか?」
「さぁ?私にはわかりません」
「1ヶ月以上も行方不明なのに、警察に連絡しなかったのはなぜですか?実は、こちらは、ここら辺の防犯カメラをくまなく見たのですが、ご主人様が最後にうつっていたのは、この家の中に入ってゆく画像でした。奥様はご主人様をどこに隠したのですか?」
私は言うかどうか迷ったが正直に言うことにした。
「主人はあそこにいます」
指差された方向には、冷蔵庫があった。
警察官が冷蔵庫を開くと、中には、肉の塊がいくつか冷凍保存されていた。
…つづく
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